65人が本棚に入れています
本棚に追加
Prologue
ナスターが死んだ。
もうずいぶんと長いこと、ブレイズの唯一の話し相手だった黒い犬が――。
水に弱い「素材」で「創られた」犬だったから雨の日には外に出さないよう気を付けていたはずなのに。
ナスターはブレイズが相手をしてやれない間、じっとおとなしく待っていられる玉ではなかった。少しでも隙間があればいつでもふらりと出て行ってしまう、困った癖のある奴だった。
それはまるでナスターを創ったもう一人の性格を現しているようで、正直憎めない部分のひとつでもあったのだ。
だからナスターが自分勝手な振る舞いをしてもブレイズは本当の意味で腹を立てたことはない。
ナスターからそういう面を奪ってしまったら、ナスターがナスターではなくなってしまう気がしたから。
でも、それがいけなかったのかも知れない。
もう少し厳しく躾けていたならば、こんなことにはならなかったのかも。
ナスターはただ、ナスターらしく行動しただけなのだ。
自分が眠っている間にこっそり屋敷を抜け出してしまった愛犬を責めることは出来ない。
でも、今回は是非とも生憎雨が降り出してしまった。
雨は嫌いだ。
月も星もない、真っ黒な夜空は本来心地よいはずの闇を、言いようのない拒絶で埋め尽くす。そんな雨の晩は呪われた身で出歩くことはままならなかった。
だからブレイズは雨が嫌いだった。
最初のコメントを投稿しよう!