死にたいアイツと被害妄想

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 リビングからは幼稚園児の葉月(はづき)の駄々をこねる声が時々聴こえてくる。幼児ってなんでこう声がおっきいんだろ、なんて思うけど、考えてみれば朝からひとんちで盛大に叫んでたのはオレのほうだった。  オレと瑞希は、まさにいま葉月が通ってる幼稚園時代からの幼なじみだ。弱っちくて人見知りの瑞希はまるで疑いもせず、オレの進む道へ自らくっついてくる。学区内の中学の評判がすこぶる悪いことを心配した両親の判断で学区外の学校を受験したときも、当然のようについてきた。高校受験だって同じ。伊咲(いさき)くんはどこ受けるの? 僕も同じとこ行きたい。そう言って、当然のようにくっついてきた。もともとの成績はオレより瑞希のほうが上。スポーツ推薦ならまだしも、普通の受験でオレだけが受かる方法なんて、インフルエンザで瑞希がやむなく欠席する以外は考えられない。  海原(かいばら)瑞希は折田(おりた)伊咲の金魚のフン。そうやってどこへ行ってもからかわれ続けてること、きっと当の瑞希だけが知らないんだろう。  メンタルが弱い瑞希を急き立ててどうにか学校に通わせているのは、もちろんこのオレだ。高校デビューに失敗した瑞希は、地味で打たれ弱い性格をおもしろがられ、人前に立つ役員なんかに無理やりさせられているらしい。グループ分けでハブられるのは日常茶飯事。いくら頼りになる伊咲くんと同じ高校に通っていたって、同じクラスじゃなきゃ全部は守ってもらえない。そのことを、瑞希はいま頃身をもって実感してるはず。
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