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死にたいアイツと被害妄想
「起きろバカ瑞希オラァ!」
蹴り開けたドアがミシミシ唸ってる。長年オレの渾身の蹴りを受け続けたドアはもうガタガタのおじいちゃん。でも日常化してるから瑞希の両親は直す気ゼロ、風穴が空くまではたぶんこのままだ。
「テメェ昨日の仮病だってバレてんぞゴラァ! 起きろや!」
ベッドまで一直線にずんずん入り込むと、へなちょこ坊主の瑞希を布団のガードから引きはがした。
「わ、さむっ」
「わ、さむっじゃねぇよ早く支度しろオラ!」
「オラとかコラとか朝から怖いからやめてよぉ!」
「うっせ! オレァ朝から全力なんだよコラ!」
「わ、わかったから叫ばないでぇ」
「わかったなら一刻も早くそのケツ動かせオラ! オレまで遅刻すっだろ!」
「ひぇ!」
すっとんきょうな悲鳴を上げて飛び上がると、瑞希はオレに蹴られた尻をさすりながらいそいそと着替え始めた。ヤツが動き出したのを見届けたあとは、スッと名残なく視界から切り捨てる。
「じゃ、下で待ってっから」
「わ、わかった、ごめんね」
「アイヨ」
派手な音をたてて扉を閉めると、階段を下りている間までもミシミシと微かに音が続いた。気にせずに玄関まで戻って靴を履き、そこで瑞希を待った。
瑞希の母はもう慣れっこで、一度挨拶をしてオレに息子の世話を任せると、もう一切リビングから出てこなくなる。瑞希には超絶年の離れた弟がいて、久しぶりのガッツリ子育てにおばさんだって忙しいのだ。多少コミュ障でも成績には不足のない息子のひとりくらい、ソッコー同級生に預けちゃうのも当然の道理ってわけ。
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