リカルド・カルーゾの椅子

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「これが噂の、リカルドなんとかの椅子」 上座の周辺で、若頭が、絶句している。 親分は満足げに頷きながら、語り出した。 「リカルド・カルーゾは、ニューヨークのジョルダーノ・ファミリーの幹部だった。とにかく腕っぷしが強く豪胆な男だった。カルーゾには、楽しみがあった。午後一時半から二時の間にトミーの店に行き、そこでスパゲッティで腹を満たすことだ。カルーゾは、スパゲッティを平らげた後は、だいたい午後の三時半すぎまでトミーの店で過ごした。カルーゾは、いつも決まった席の決まった椅子に座っていたそうだ」 親分は、一同の顔をひとりずつ見渡した。 順番に、ひとりずつ。 ひとりひとり、順番に。 親分は、上杉を見た。次は俺のはず。なのだが、親分は俺を見ず、見事にすっ飛ばして次のヤツに視線を移した。毎度おなじみ、いつもの嫌がらせだ。いい加減、慣れっこだ。俺は親分から嫌われている。俺は親分から疎まれた、組織のはみ出し者。 親分は胡麻すり野郎が大好きだ。そして、俺は胡麻すり行為が死ぬほど嫌いだった。 俺はいつだって自分に対して正直に生きている。
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