リカルド・カルーゾの椅子

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親分は芝居がかった口調で続けた。 「運命の時は訪れた。一九三三年の三月三日。午後三時。その日もカルーゾはいつもの席でスパゲッティを平らげ、食後のコーヒーを楽しんでいた。そこに、対立していたフランコ・ファミリーの殺し屋が三人現れた。そうだよ。鉄砲玉だよ。鉄砲玉が三人、機関銃を手に現れたのだ。ヤクザってのは、日本もアメリカも、やることは変わらねえもんだ。とにかく、カルーゾは撃たれた。気の毒に、全身に八十発の弾丸を喰らってたそうだ」 親分は、いったん言葉を切った。 「店主のトミーがカルーゾの元に駆け寄った。信じがたいことに、血みどろになったカルーゾにはまだ、かすかな息があった。カルーゾはトミーに言った。この時間のこの席のこの椅子は俺のモノだ。午後三時のこの椅子には、俺以外のヤツを絶対に座らせないでくれ。約束してくれ、トミー。午後三時のこの椅子は俺のモノなんだ。この椅子に、午後三時にだけは、絶対に誰も座らせるな」 親分は、目を閉じた。 目を見開き、語り始める。 「そのように言い残し、カルーゾは息絶えたのだ。それが、一九三三年三月三日午後三時。やがて、時は流れた。トミーも死んだ。トミーの店は無くなったが、椅子は残った。椅子は人の手に渡り、何度も持ち主が代わった。やがて椅子は海を越えて、香港の楊の手に渡った。そうなのだ。カルーゾが自分のモノだと言い残した椅子というのが、今ここにあるこの椅子そのものなのだ」 俺は知っている。ニューヨークマフィアのカルーゾの椅子は、単なる都市伝説の類いなどではない。正真正銘本物の呪いの椅子なのだ。FBIの超常現象事件ファイルにも収められている本物だ。
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