リカルド・カルーゾの椅子

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午後の三時。午後の三時にカルーゾの椅子に座った者は、必ず死ぬ。必ずだ。度胸試しなんていう馬鹿なことを考えて実行するようなヤツは、きっと洋の東西を問わずどこにだっていたのだろう。面白半分にカルーゾの椅子に座ったニューヨークのマフィア達が何人も死んだ。何人もだ。その数は一説には三十人以上と言われている。FBIの特別捜査官もひとり死んでいる。FBIが公式に把握しているだけでも死者数は二十八人。話し半分だとしても、十人以上の人間がカルーゾの呪いによって死んでいるのだ。 その椅子が今、目の前にある。 よりにもよって、親分の野郎。なんて悪趣味なモノを手に入れてくれたのだ。 隣の上杉が言う。 「なあ兄弟。あれは呪いの椅子ってヤツか」 俺は頷く。煙草の灰が、いつの間にかいっぱいに伸びている。俺は吸い終えた煙草を、懐に常備の携帯灰皿の中に収容した。テーブルには灰皿が見当らなかった。吸うなってことか。嫌煙の波はヤクザの世界にまで押し寄せている。くそ食らえだ。いつの日か野垂れ死にを晒す時も、俺は煙草を高くくわえながら死んでやる。 「午後三時。午後三時にカルーゾの椅子に座った野郎は、二十四時間以内に必ず死ぬんだよ」と、俺。 「本当かよ」 「本当みたいだぜ。実際に三十人ぐらい死んでるみたいだし」 上杉が、青ざめて口をつぐんだ。 俺は、追い討ちをかける。 「座れって言われても、やめといたほうがいいぜ」 「お、おう。そうだな」上杉の声。震えている。
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