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やがて、二時五十五分になった。
ついにひとりの馬鹿野郎が立ち上がった。
鳴沢佳祐。
「親分。俺に座らせておくんなまし」
親分は顔を輝かせた。
「おお。鳴沢! おまえ座るか?」
「はい。せっかく親分が香港マフィアの楊一家から取り寄せたリカルドなんとかの椅子ですからね。是非ともあっしが座って、男を立たせていただきやすぜ」
「よう言うた、鳴沢。それでこそヤクザだ。おまえこそが真の極道だ」
親分から誉められ、得意満面の鳴沢。辺りがざわついている。ざわざわざわざわ。
あちこちから聞こえる称賛の声。
「鳴沢、偉いぞ」
「いやあ、親分。もっと誉めてやっておくんなまし」
「やいやい、野郎ども。こんだけ幹部が揃っていながら、本物の極道は鳴沢ひとりだけか? わしゃあ悲しいぞ。まったく。大した子分どもよのう!」
「いやあ、親分。おとこ鳴沢、親分と組のためなら、命なんてまるで惜しくもありませんや。さあ、もっと誉めてやっておくんなまし」
鳴沢め。露骨な胡麻すりしやがって。
気に入らねえ。鳴沢は普段から俺の縄張りを狙っているような油断ならねえ野郎だ。あんな狡猾な狐みたいな野郎の風下に、むざむざ追いやられてたまるかよ。
「よし。みんな聞け。注目!」
親分が、手を叩いて注意を促した。
「午後三時にリカルド・カルーゾの椅子に座って死ななかったヤツには、わしの跡目をくれてやる。そして、わしは引退する。跡目を継ぎたいヤツは前に出ろ」
辺りは騒然となった。
何しろ、このままでは、次期組長はズル賢い鳴沢で決まりなのだ。
それだけは避けたい。
だが、椅子に座って呪い死んだら、元も子もない。何しろリカルド・カルーゾの椅子は、致死率百パーセントの恐ろしい呪いの椅子なのだ。
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