24人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
リカルド・カルーゾの椅子
男達。黒背広の群れ。
皆、一様に眼力が鋭い。そして、無言だ。
それぞれが、序列通りの席にいる。身動きする者は、いない。
沈黙。空気が重い。畳の青さに瑞々しさは無く、殺伐としていた。
テーブルの緑茶は冷めているのか、酷く濁っている。ずずっと音を立てながら飲んでみた。馬の小便のような味がした。
やがて、長い沈黙の末に、尊大な素振りの男がひとり、現れた。上座に着く。
一同、挨拶。
間。
自らの存在の重みを意識させるようなわざとらしい沈黙を経て、漸く男が口を開いた。
「本日、皆に集まって貰ったのは、他でもない。見せたいものがあるのだ」
上座の男――組長、すなわち親分が二度、手を叩いた。そして、廊下に控える白いジャージ姿の若者達を一瞥した。
「おい。例のモノ。持ってこい」
ジャージ姿の若者達は一礼し、下がった。
黒背広の男達は、身動きひとつせず、上座の親分を見つめている。
末席の辺りに陣取る俺。懐を探った。煙草を取り出す。口にくわえた。自分の手でジッポーを鳴らし、火を点けた。
紫色の煙を腹の底から吐き出した。
辺りを見ると、動いているのは俺だけだった。ましてや、湯飲み茶碗に口をつけ、煙草をくわえている者なんて、上座の親分を含めても、俺以外に誰ひとりとしていない。
隣に座る幹部の上杉が、俺の耳元に囁く。
「おい、兄弟。親分が嫌煙家だってこと、あんただって知ってんだろ? 少しは自重しろや」
「自重? ふふん」
相手にせず、煙を吐き出した。
最初のコメントを投稿しよう!