愛したら止まらなくなった

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「こら、危ないだろ!落ちて怪我でもしたらどうするんだ!」 「だいじょうぶだよ~パパは心配性なんだから」 「いいから、高い所にあるものは俺に言いなさい」 「はあい。もう、パパは“おやばか”だなあ」  愛しい子とふたりで過ごす昼。なんて平和で、幸せなんだろう。昔の俺が見たら、ひっくり返って驚くだろうな…。 「はい、パパ!」 「ん?なんだ、くれるのか?」 「うん!だって今日は父の日って、カレンダーに書いてたから」  もらった画用紙を広げて見ると、俺の似顔絵と「パパだいすき」の文字。  俺は目頭が熱くなるのを感じながら、ガバッと思い切り抱きしめた。 「ありがとう!!パパも大好きだぞ~~!!」 「あはは!パパ泣いてる~!」  ああ、何て愛しいんだ! 【 愛したら止まらなくなった 】  誰も信じず、誰も愛さず、ずっと独りで生きてきた。自分で育てた会社のことだけを考えて、女なんか二の次三の次。  だからコイツを初めて見たときだって、面倒だと思った。俺はガキなんて大嫌いだ…そう文句を垂れていたのに。 「見ろ、今日の昼飯はお子様ランチだぞ~!」 「わあい!パパの作る料理はせかいいちだねっ」 「くぅ~お前のかわいさも世界一だな!!」 「あはは、パパ『おやばか』って言われちゃうよ~」 「何を言う!親バカとは思い込みのことをいうんだ、お前が世界一可愛いのは事実なんだから俺は親バカではない!」 「いただきまーす」  美味しそうに頬張る姿は天使だ、間違いなく。今までそういった類いは信じていなかったが、考えを改めよう。天使はいたんだ、今ここに俺の目の前に! 「食べたら宿題しような」 「あ!昨日の宿題ね、もうぜんぶおわったんだよ~!」 「なにっ!!本当か!?」 「うん!ねえパパ、すごい?すごい??」 「ああすごいぞ!!何てことだ、こんなに可愛いのに頭もいいなんて、お前は神の子か?!」 「何言ってるの、パパの子だよ~」 「ああっ…こんな子が俺の子だなんて、なんて幸せなんだ!!」  誰も愛さなかった俺は、いつしか全ての人に見放され、独りになっていた。  そんな俺に笑いかけてくれたのは、当時まだ赤ん坊だった天使…! 「あ、パトカーだ!かっこいいなあ」 「ああ、よかったな。…ん、雨か」 「…ねえパパ、雨って、冷たいんでしょう?」 「ああ、そうだよ」 「すごいなあ、触ってみたいなあ」  切なげに空を見上げる表情に、胸が苦しくなる。 「ごめんな…」 「ううん。元気になったら、お外でいっぱい遊ぶんだ!」 「…ああ、楽しみだな」  お前にそんな顔をさせてしまう自分が情けない。外に出られないお前が寂しくないよう、仕事をセーブしてなるべく家にいるようにしたというのに。 「パパ、ごめんなさい。おしごと大変なのに…」 「何を言ってるんだ。俺はお前の笑顔を初めて見たそのときから、お前のことを守ると決めたんだ。パパはお前の笑顔が大好きだからな」  そうだ、ずっとこの笑顔を見ていたい一心で、今日までお前を育ててきた。  仕事だって金だって、なんだってくれてやる。お前以上に大切なものなんて、ないんだから。 「あのね、病気が治ったら、たくさんしたいことがあるんだ!」 「そうか。何がしたい?」 「んとね、まず学校に通うでしょ、それからお友達いっぱい作って、公園で遊んで、遊園地に行って…あとね、電車にも乗ってみたい!」 「はは、電車か。覚えていないだろうけど、乗ったことあるんだぞ、まだ赤ん坊のときに」 「え、ほんとう!?」 「ああ。なんたって、俺が初めてお前に会ったのは、電車の中でベビーカーに乗ってるのを見かけたときなんだからな」  大切で、愛しいんだ、何よりも。その気持ちに嘘はない、それなのに、何がいけないのだろうか。コイツは、俺の…。ああ、くそ。外が騒がしいなあ。 「──ちゃんの誘拐事件で、××の元代表取締役が逮捕されました。男は自身を『パパ』と呼ばせ、父親だと偽り数年に渡って監禁していた模様です。男は動機について、『愛したら止まらなくなった』と供述しており───」 愛したら、とまらなくなった 完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加