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「こら、危ないだろ!落ちて怪我でもしたらどうするんだ!」
「だいじょうぶだよ~パパは心配性なんだから」
「いいから、高い所にあるものは俺に言いなさい」
「はあい。もう、パパは“おやばか”だなあ」
愛しい子とふたりで過ごす昼。なんて平和で、幸せなんだろう。昔の俺が見たら、ひっくり返って驚くだろうな…。
「はい、パパ!」
「ん?なんだ、くれるのか?」
「うん!だって今日は父の日って、カレンダーに書いてたから」
もらった画用紙を広げて見ると、俺の似顔絵と「パパだいすき」の文字。
俺は目頭が熱くなるのを感じながら、ガバッと思い切り抱きしめた。
「ありがとう!!パパも大好きだぞ~~!!」
「あはは!パパ泣いてる~!」
ああ、何て愛しいんだ!
【 愛したら止まらなくなった 】
誰も信じず、誰も愛さず、ずっと独りで生きてきた。自分で育てた会社のことだけを考えて、女なんか二の次三の次。
だからコイツを初めて見たときだって、面倒だと思った。俺はガキなんて大嫌いだ…そう文句を垂れていたのに。
「見ろ、今日の昼飯はお子様ランチだぞ~!」
「わあい!パパの作る料理はせかいいちだねっ」
「くぅ~お前のかわいさも世界一だな!!」
「あはは、パパ『おやばか』って言われちゃうよ~」
「何を言う!親バカとは思い込みのことをいうんだ、お前が世界一可愛いのは事実なんだから俺は親バカではない!」
「いただきまーす」
美味しそうに頬張る姿は天使だ、間違いなく。今までそういった類いは信じていなかったが、考えを改めよう。天使はいたんだ、今ここに俺の目の前に!
「食べたら宿題しような」
「あ!昨日の宿題ね、もうぜんぶおわったんだよ~!」
「なにっ!!本当か!?」
「うん!ねえパパ、すごい?すごい??」
「ああすごいぞ!!何てことだ、こんなに可愛いのに頭もいいなんて、お前は神の子か?!」
「何言ってるの、パパの子だよ~」
「ああっ…こんな子が俺の子だなんて、なんて幸せなんだ!!」
誰も愛さなかった俺は、いつしか全ての人に見放され、独りになっていた。
そんな俺に笑いかけてくれたのは、当時まだ赤ん坊だった天使…!
「あ、パトカーだ!かっこいいなあ」
「ああ、よかったな。…ん、雨か」
「…ねえパパ、雨って、冷たいんでしょう?」
「ああ、そうだよ」
「すごいなあ、触ってみたいなあ」
切なげに空を見上げる表情に、胸が苦しくなる。
「ごめんな…」
「ううん。元気になったら、お外でいっぱい遊ぶんだ!」
「…ああ、楽しみだな」
お前にそんな顔をさせてしまう自分が情けない。外に出られないお前が寂しくないよう、仕事をセーブしてなるべく家にいるようにしたというのに。
「パパ、ごめんなさい。おしごと大変なのに…」
「何を言ってるんだ。俺はお前の笑顔を初めて見たそのときから、お前のことを守ると決めたんだ。パパはお前の笑顔が大好きだからな」
そうだ、ずっとこの笑顔を見ていたい一心で、今日までお前を育ててきた。
仕事だって金だって、なんだってくれてやる。お前以上に大切なものなんて、ないんだから。
「あのね、病気が治ったら、たくさんしたいことがあるんだ!」
「そうか。何がしたい?」
「んとね、まず学校に通うでしょ、それからお友達いっぱい作って、公園で遊んで、遊園地に行って…あとね、電車にも乗ってみたい!」
「はは、電車か。覚えていないだろうけど、乗ったことあるんだぞ、まだ赤ん坊のときに」
「え、ほんとう!?」
「ああ。なんたって、俺が初めてお前に会ったのは、電車の中でベビーカーに乗ってるのを見かけたときなんだからな」
大切で、愛しいんだ、何よりも。その気持ちに嘘はない、それなのに、何がいけないのだろうか。コイツは、俺の…。ああ、くそ。外が騒がしいなあ。
「──ちゃんの誘拐事件で、××の元代表取締役が逮捕されました。男は自身を『パパ』と呼ばせ、父親だと偽り数年に渡って監禁していた模様です。男は動機について、『愛したら止まらなくなった』と供述しており───」
愛したら、とまらなくなった
完
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