1628人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
123便の垂直尾翼は、相模湾上空でおよそ七割が吹き飛んでおり、多くが相模湾に水没した。残骸が発見されないまま、一年半で調査は打ち切りになった。
二〇一五年八月十二日、テレビ朝日のニュースが、相模湾の海底で123便の残骸らしきものを発見したと報道した。
しかしその後、続報が報道されることはなく、このニュースは世間から忘れ去られた。
あれから四年をかけて準備をしてきた私は、静岡県東伊豆町の沖合約2.5km、123便の推定飛行ルートの真下に停泊している。
船上のモニターは、潜水艇に積んだカメラの映像を映している。
水泡の粒を上に上にと吹き上げながら、カメラは水深160メートルの海底に到達した。
泡がおさまるのをしばらく待ち、モニターに目を凝らすと、一片が1メートルほどの四角い金属が横たわっている。
数字らしき文字が書かれた金属の一部には、禿げかけてはいるが、水の中でもはっきりと判る、鮮やかなオレンジ色の塗料が付着していた。
そのとき、上空にごぉーっという音が近づき、見上げた遥か高い空を、ジャンボジェット機が遠ざかっていった。
仕事で取引先に向かう人、家族旅行、恋人に会いに行く人。
あのジェット機は、様々な人たちの想いを運んでいるのだろう。
三十四年前のあの日と、おなじように——
— 完 —
最初のコメントを投稿しよう!