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あれから数日。
犯人の手がかりは未だ掴めず、一向に進展しなかった。
だが、どこかで確信はしていた。
この事件の犯人は彼女だと。
動機や殺害方法が分からずとも、それだけは明白だった。
だから彼は、彼女を探し続けた。
『百合』の少女を。
彼女が行きそうな場所は全て探した。
自宅はもちろん、親戚の家。友達の家。通っていた小中学校。それから……2人の思い出の場所。
彼女の姿をくまなく探したが、どこにもいなかった。
屋上の事もあるし、全ては幻覚だったのではないか。彼女は初めから存在していなかったんじゃないか。そんな考えさえ浮かんでしまう。
……だが、彼女は意外にもあっさりと、目の前に現れた。
寒い冬の日。学校の帰り道。
体調が優れないため、早退したのだ。
この日は雪が降っていた。ふわふわとした粉雪。その中で。彼女の姿は一際美しかった。
長い黒髪。白い肌。真っ赤なコート。……その全てが、この世界から剥離してしまっているかのようだった。
なんて声をかけよう。久しぶり、お前が犯人か……いや違う。言うべきことはもっとあるはずだ。暫し思考を巡らし、最も尋ねたかった言葉を選ぶ。
「これは、お前の復讐なのか」
少女は笑う。とても優しい瞳で。
「君の為なんだ」
少女は紡ぐ。彼と被害者たちとの関係性を。
彼は孤児だった。
知っているのはたったそれだけ。
彼女の言葉など、耳には入ってこない。
ただ、知りたくない心が過去を否定する。
あんな人たちは知らないと、記憶が拒絶する。
「これは陽炎。君の砂漠だ」
彼女は腕時計を見やる。その表情は酷く穏やかだ。時計の針は2時59分を指し示していた。
「これで、君を守りきれる。……さて時間だ」
車のスリップ音。……続いてブレーキ音。
……そして、骨が軋む音。
少女が立っていた場所には何もなく。
その少し向こう側に。
赤い血だまりが広がっていた。
雪は。
いつしか雨に変わっていた。
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