告白の時、今

1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

告白の時、今

 僕は迷っていた。  彼女に告白するかどうかで……。  はっきりと「付き合いたい」って言いたいんだ、本当は――。  でも、意気地なし。ダメなんだ。勇気がでない……。  ほら、彼女はもうすぐ、そこまで来てるよ。  どうするんだ。カッコよく、壁ドンで決めるか。  でも、民家の壁に追い詰めるって、ヤバイ気がするし……。  そんなの出来るわけないよ。  昼下がりの路地裏。細く曲がった小道を彼女は一人で歩いていた。  ――人はいないみたいだ。  今だ、今がチャンスだ!  よしっ、とばかりに僕は四つ辻へ飛び出した。  が、足が止まった。  彼女が立ち止まり、空を見上げたからだ。  僕もつられて、顔を空に向けた。  抜けるような青空に、綿のように膨れあがった入道雲が視界に入った。  モクモクと勢いよく、まだまだ膨張しそうな雄大な姿に心を躍らせてくる。  さっきまで、電信柱で泣いていた油蝉の鳴き声が、遠くの方に感じる程だ。  そうだ、彼女に告白するんだった。  僕は彼女を見据えた。  彼女は夢焦がれるように笑みを浮かべていた。  すごく無邪気に幸せそうな表情をしている。  瞬間、僕の時間は止まった。  彼女の幸福感がオーラを発して僕を包む。 その女神に似た至福の暖かさがすごく心地よかった。 「広瀬くん、どうしたの? 何かあったの?」  彼女が僕に気づいて問いかけてきた。  安藤美依菜、それが彼女の名前だ――。  高校一年生。僕と同じ高校に通っている。  彼女とは中学から一緒で、偶然にも三年間、同じクラスだった。  高校では別クラスになったが、彼女に対する気持ちは、ますます上昇するばかりだ。  ――よし、勇気をだして言おう、今こそ告白の時だ! 「あの、僕……ずっと、き、き、き……みの」  言えない。何故、言葉が詰まるっ――。 「やっぱり気づいてたんだ。――昨日、髪の毛切られ過ぎちゃって……。熱いから短くしてくださいっていったのが失敗だったわ。これ、ウィッグよ。落ちそうになったから、わからないように空を見上げたんだけど、広瀬くんに気づかれちゃったね」 「わ、わかってたよ」  引きずられて違う言葉を言ってしまった。  ホントは、 「好きだ!」  って言いたいのに……。 「二人だけの秘密よ」 「うん」  何故かわからないけれど、僕は急に心が躍った。  そして、今度こそ言おう  「君が大好きだ!」  って――。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!