ホントの力

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ホントの力

 ――そう、わかるんだ。  何もかも、手に取るようにわかってしまう。  安藤美依菜のことなら少しぐらい離れていようと、手に取るように頭に浮かぶんだ。  特に学校という限られた閉鎖空間に関してなら、どこに居ようと必ず把握できる。  最近それに気づいた。  もしかして、それって、超能力?  遠隔透視能力っていうヤツじゃないの――っ!  イエーーイ!  美依菜と同じように、僕も超能力者として、進化したってことかもしれない?  これは、大変なことだが、かなり喜ばしいことでもあるのだ。  ここに超能力者『広瀬三津留』が誕生したのである――。  僕の名前は、広瀬三津留。『海明学国』の通う高校一年生だ。  安藤美依菜も『海明学国』一年生で、同じクラスだ。中学三年間もずっと同級だったので、彼女とは深い縁で結ばれているに違いないと思っている。  その美依菜に中学一年の時、ひとめぼれをしてしまった。  交際を申し込む言葉が言えず幾度となく玉砕したが、ついに、この間成功したのだ。  だが、返事はまだ、もらっていない……。  美依菜にはテレパシー能力がある。  ゆえに僕の気持ちはわかっていたはずなんだ。  だったら、どーして、言ってくれなかったんだ、知ってるって――。  言えるわけないよな、女の子なんだしな……。  男の僕がしっかりしなくっちゃ、ガンとかまえろっ!  不動明王になれっ!!  しかし、この先、どうすれば……いいんだ。  美依菜に告白するという目標は達した。  交際も申し込んだ。  後は、彼女の返事待ち?  いや、次に、新しい何かを、行動を起こさなければいけないんじゃないのか……?  新超能力者の『広瀬三津留』としては、何ができるのかな?  そうだ!  美依菜は今、何してるのかな……。   ――見えた。  ――今、体育館にいるんだ。  可愛い、とにかく可愛いっ!!  あっー、あいつは、モテ男の斉藤タケル――!  この間、美依菜に壁ドンしてコクったヤツ!  くそーっ、またしても、邪魔をする気かっ!  美依菜は、お前の告白を断ったはず、なのに、ホントに諦めの悪いヤツだっ!  ――えっ、なんだって、今、なんてった、美依菜の言葉は……。  ――聞こえない、聞こえないじゃないかっ。  僕の能力は映像しか見えないのか……?  わからない、彼女が何を話しているのかが…………。  あっ、アイツなにしやがるっ、美依菜の両肩に手を掛けたぞ!  くそーっ、何をする気だーーーーーっ!  まさか、キス? キス? キス?  まさか? まさか? まさか?  美依菜の顔が歪んでいる。  あきらかに嫌がっているぞっ!  このクソ野郎ーっ!!   お前、何人もの女子をそうやって口説いたのかっーーー!!!  ――ヤバイぞ、行かなきゃ!  美依菜を救出にいかなきゃーーーーーっ!!!  僕は、廊下を走った。  体育館までは二分くらいか――。  だめだ、間に合わないっ……。  美依菜ーーーーーーーっ!!!!!!  ――ムッ!?  美依菜の唇が斉藤タケルに奪われそうになった瞬間、ヤツがふっ飛ばされた。  ――なんだ? 何が起こったてんだ???  僕の脳裏に映る美依菜は、呼吸が荒く、肩で息をしていた。  目を丸くして、驚いたような表情で、空間を見つめていた。  どうなったんだ――?  僕は体育館へと急いだ。  体育館の隅には積み上げられた体操用のマット群が置かれていた。  その上に、斉藤タケルが気絶して寝転がっていた。  美依菜は壁を背にして、座り込んでいる。  何か意識が飛んでいるように見受けられる。  僕は駆け寄り、 「安藤、しっかりしろ! 何があった!」  と叫んだ。 「わたし、わたし……無意識に……」  美依菜は動揺しているようだった。 「きみの力なのか?」 「……」  彼女はゆっくり頷いた。  まさか……、美依菜の本当の力がサイコキネシス(念動力)だったとは……。  美依菜が立ち上がった。 「大丈夫、歩けるの?」  彼女の手が僕の肩に掛かった。  僕は美依菜の身体を支えながら、 「テレパシー能力じゃなかったんだ」  と尋ねた。 「それも少しはある。けど、念力の方が強いの……」  二つも能力があるのか……すごいな……。  歩きながら、美依菜に頼られている自分に心地良さを覚えていた――。 「お前ら、何してるっ!」  体育教師のヤマダだ! ヤバイ――。  体操用のマットに気絶している斉藤タケルを見たヤマダは僕に、 「お前がやったのか」  と言った。 「あの、その……」  口ごもっている僕の横で、美依菜が説明した。 「斉藤くんが無理やりキスしようとしたので、広瀬くんが助けてくれたんです」 「広瀬が、か――」  体育教師ヤマダは、不信そうに僕を見たが、 「早く、保健室に連れて行ってやれ」  といって、斉藤タケルの方に歩いて行った。  僕は、美依菜を抱きかかえながら思った。  ――僕は、美依菜の力になっているんだ。  そうだ! 愛する美依菜を助け、守るんだ。  今後、何があろうとも、美依菜を悪の手から守ってやるっ!  それが、僕の新しい目標、使命なんだ!!  絶対、守ってやるっ!!!  
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