エピローグ

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 ストーカー事件のことがあり、渋谷店長には申し訳なかったけど先週ファミレスのバイトを辞めた。やっぱりいまはまだ怖い。渋谷店長は「そのほうがいい」と快く了承してくれた。  智樹につきまとわれることもなくなった。教室で顔を合わせればちょっとした世間話をするくらい。真美ちゃんによれば、学生課の杉浦さんとヨリが戻ったらしい。  なんだそれ。要するにさみしかったから、わたしにちょっかいをかけていたのか。と思ったけれど、別に腹が立つことはなかった。逆にすでに新しい一歩を踏み出している智樹がうらやましかった。  わたしはいまも佐野先生を忘れられずにいる。  吹きつける十月の冷たい海風が何度も髪を巻きげた。 「失敗……」  今日は髪をまとめるゴムもクリップも忘れてきてしまった。  秋の海辺はとても静か。たまに親子連れやカップルを何組か見かける程度。  ここに来るのは何度目だろう。花火大会の日に佐野先生と一緒に腰をおろした砂浜は、すっかり定位置になってしまった。  こじらせ女は本当に厄介だ。どうしてわたしじゃだめだったんだろう。わたしに足りないものはなんなのだろう。だけどいくら考えても、その答えは波がさらっていく。  ふいに電話が鳴った。佐野先生だ。 「もしもし」 『輝?』 「はい」 『やっと出てくれたな』 「ごめんなさい」 『いまどこにいる?』 「海です」
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