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「俺、ちゃんと覚えてるから。美術館に行ったことも、ここで花火を見たことも、輝と過ごした時間を全部……。ずっと忘れない」
「……はい」
「たくさん泣かせちゃってごめんな」
この恋がいつ終わりを迎えるのか、わたしにはわからない。きっとこの先も佐野先生を思って泣くことがあるかもしれない。
だけどね、佐野先生。
この恋はとても苦しいものだったけど、わたしは佐野先生を好きになったことを後悔していないんだよ。好きになってよかったと心の底から思ってるの。だからもう謝らないでね。罪悪感も持たないでね。
「好きになってくれてありがとう」
もう声にならなくて、答えの代わりにうなずく。
沖の漁船は地平線の向こう側に消えていた。海風だけは相変わらず吹き渡っている。
髪をおろしておいてよかった。髪を押さえながら横顔を隠し、わたしは心のなかで叫んだ。
お願い、この涙を早くかわかして。
すると青い海にたくさんの雫が溶けていって、キラキラと輝きはじめた。それがあまりにも美しくて、わたしの心も浄化されていく。
「お幸せに、佐野先生」
「輝も絶対に幸せになれよ」
力強い言葉に胸が熱くなった。
ようやく踏み出せそうな気がする。未来への一歩。焦らず、わたしなりにゆっくりと進んでいこうと思う。
《完》
-----お知らせ-----
ここまで読んでくださってありがとうございました。このお話には続きがあります。4年後のお話(短編)です。興味のある方はぜひ読みにきてください。こちらの作品とはまた違う感じの内容となっております。
タイトルは『ウインタータイム』です。
2019.7.25 さとう涼
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