エピローグ

4/4
1008人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
「俺、ちゃんと覚えてるから。美術館に行ったことも、ここで花火を見たことも、輝と過ごした時間を全部……。ずっと忘れない」 「……はい」 「たくさん泣かせちゃってごめんな」  この恋がいつ終わりを迎えるのか、わたしにはわからない。きっとこの先も佐野先生を思って泣くことがあるかもしれない。  だけどね、佐野先生。  この恋はとても苦しいものだったけど、わたしは佐野先生を好きになったことを後悔していないんだよ。好きになってよかったと心の底から思ってるの。だからもう謝らないでね。罪悪感も持たないでね。 「好きになってくれてありがとう」  もう声にならなくて、答えの代わりにうなずく。  沖の漁船は地平線の向こう側に消えていた。海風だけは相変わらず吹き渡っている。  髪をおろしておいてよかった。髪を押さえながら横顔を隠し、わたしは心のなかで叫んだ。  お願い、この涙を早くかわかして。  すると青い海にたくさんの雫が溶けていって、キラキラと輝きはじめた。それがあまりにも美しくて、わたしの心も浄化されていく。 「お幸せに、佐野先生」 「輝も絶対に幸せになれよ」  力強い言葉に胸が熱くなった。  ようやく踏み出せそうな気がする。未来への一歩。焦らず、わたしなりにゆっくりと進んでいこうと思う。 《完》 -----お知らせ-----  ここまで読んでくださってありがとうございました。このお話には続きがあります。4年後のお話(短編)です。興味のある方はぜひ読みにきてください。こちらの作品とはまた違う感じの内容となっております。  タイトルは『ウインタータイム』です。  2019.7.25 さとう涼
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!