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「ナリ、自分で取ってこいよ」
リーダーのシグレさんが言う。けれどカザネさんはかわいらしい笑顔をシグレさんに向けた。
「別にいいの。会社で気に食わない上司に飲み会のたびにお酌したり、料理を取りわけたりしているんだから。これくらいなんてことないよ」
「なんだよ、そのたとえ。おかしくないか?」
ナリが腑に落ちない言い方をする。だけどカザネさんはまったく動じず、ニコニコしながらドリンクコーナーにナリのウーロン茶を取りにいった。
カザネさんは一目瞭然、ナリの恋人だ。ナリの隣を陣取っているカザネさんを初めて見たときにピンときた。
「相変わらず、みんな仲がいいね」
わたしが別のテーブルの皿をさげていると、料理を運び終えた由紀乃が通りがかりに話しかけてきた。
「だね、今日も楽しそう」
彼らはいつも笑顔だった。社会人だけれど、いまだに青春を謳歌しているよう。リア充とは違う。本気で人生を楽しんでいて、情熱的でさわやかさもあった。
六人はあっという間に料理をたいらげ、一時間ほどで店を出ていった。
ファミレスの窓からナリとカザネさんが並んで歩いているのが見える。
絵になるふたり。お似合いのふたりだった。
ふたりが七月の夜の闇にとけていく。わたしは今日もうっとりとため息をもらした。
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