第1章 エンゲージリング

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 バイトあけの日曜日の昼間。久しぶりにおしゃれをした。  今日はガーリーに決めてみよう。そう思い、マスタード色のシャツワンピにしてみた。膝下丈のワンピースのウエストを黒のタッセルベルトでしぼり、ベージュの厚底サンダルを合わせた。我ながら気合が入っていると思う。  本当はこれからデートと言いたいところだけれど、一年前に大失恋をして、それ以来ずっと彼氏はいない。別れた直後は落ち込む日々で、休日が憂鬱に思うほどだった。  でも最近はそう思うこともなくなった。慣れとは怖い。逆にひとりでいるのが楽だと思うようになり、ひとりカラオケ、ひとりお好み焼き、ひとりパンケーキ、さらには初詣のひとり参拝も経験した。  今日はとても天気がいい。少し日射しは強いけれど、不快な暑さではない。わたしは電車で隣駅まで行くと、駅近くのファストフード店で昼食をとり、食後にぶらぶらとあてもなく歩いていた。  駅前なので人通りが多い。わたしは人混みをかきわけ、次はどこに行こうかと視線をさまよわせた。  そのとき、反対側の歩道にいる挙動不審な人物が目に止まった。  妙に気になるその動き。立ち止まり、興味本位でその顔をたしかめたら、驚いたことに見覚えのある人物だった。  懐かしい。  彼とは七年ぶりの再会だった。 「お久しぶりです」  小走りで駆け寄って声をかけると、彼は急に目の前に現れたわたしに仰天した。 「君、だ、誰!?」 「嘘? 教え子の顔を忘れちゃったんですか?」 「教え子? ああ、そっかそっか。ちょ、ちょっと待ってろ、いま思い出すから」
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