逃避

2/3
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 船員たちの緊張感が高まる中、船室でも船長と操舵士が進路を見極めるべく海図を覗き込んでいた。  船長はしきりにあごひげを撫でながら、嵐の様子を見て逃避先を考えていたが、覚悟を決めたのか、ぐっと顎を引き、目を見開いて操舵士に命令を下す。 「3時の方向へ面舵一杯」  操舵士は、驚いた面持ちで船長の顔を見て、聞き間違いではないかと確認をしたが、船長は前を見据えて進路の変更はしない。  操舵士の舵輪を持つ手が震えた。だが、船長の命令は絶対だ。  舵輪を回し、3時の方向へと船首をむけた。  嵐の足は速く、帆船を飲み込むかのように、どこまでも大きく強く発達しているようだ。  後ろから追ってくる嵐と、目の前の魔の海域とでは、どちらが恐ろしいのだろうと、操舵士は胃の痛む思いをしながら、荒れ狂う波をかいくぐって、船を進めた。  ところが、その水域に入った途端、白い靄に覆われ、羅針盤が狂ったように回転し始めた。  羅針盤の動きとは反対に、船の外は嵐の激しい風も波も凪ぎ、ついさっきまでいたのとは別世界だ。 7b9557c7-309f-4821-92c1-93ee5364d4cc
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!