逃避

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逃避

 急激に沸き上がった黒雲と、マストをバタバタ揺らす強い風に、船員たちは不安な顔を隠せないでいた。  他の船を襲ったばかりで、宝物が満載の重い船体は船足が遅く、大きな嵐を逃げ切るのは容易でない。海賊船の怖い者しらずの強者と言えど、この時ばかりは先を案ずるのを止められないでいた。 「帆をたため」 「アイアイサー」  風にバタバタとはためく横帆を下げるため、船員たちが帆を支えるためのシュラウドというロープが組み合わされた縄梯子を、次々とよじ登り、檣楼やヤードから横帆一枚につき数人がかりで下ろしていく。  急激に風向きが変わり、へこんでいた帆がバンと膨らんだ衝撃で、一人が弾き飛ばされた。咄嗟に横にいた仲間が、宙に浮いた身体を抱き込み事なきを得たが、もう一瞬でも仲間の判断が遅かったら、甲板に叩きつけられ即死したか、海に落ちて高浪で溺れ、魚の餌食になっていただろう。
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