第一話 繰り返す思い出 第3節

1/4
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

第一話 繰り返す思い出 第3節

 駅前の時計台の針は3時55分を指していた。  結構ギリギリに到着したが、何とか間に合った。  僕が車を『キミダ』喫茶店の駐車場に停めたのは3時58分であった。  早速、店の中に入った僕は、よく彼女と座っていた窓際の席を選び、お店のスタッフの女の子に、連れが間もなく来るから注文は後でと伝えて、スマフォでLINEを見た。 『今、家出るところ』4時00分  百合菜からだった。 『キミダで待ってる』  返事を返した。 『わかった』4時01分  そして5分程すると、店の扉がカランと音を立てて開かれ、ブラウスにスカート、薄手のカーディガンを羽織った百合菜が姿を現した。  彼女は僕を見つけるとゆっくりと近づいてきて、僕の正面に座り、開口一番「疲れたー」と言って両手を下にして一旦顔をテーブルに突っ伏して、それからゆっくりと頭をもたげて左手で頬杖をつきながら僕の顔を見た。 「仕事大変そうだね」  僕がそう言うと、 「うん。昨日も23時半まで会社で仕事してさ、それから車で帰って0時過ぎて、寝たの3時かな。で、今日起きたのが11時、それからウダウダして今に至るわけ」  彼女は一気にそう言うと、さらに続けて 「見せたい写真て何?」  と聞いてきた。  僕はここにきて一瞬迷ったが、ええい、そのために急いできたんじゃないか、と思い切ってデジタル一眼レフカメラをカバンから取り出し、再生モードにして目的の画像を大きめな液晶に表示させて彼女にカメラごと渡した。 「その薄紫の花の下をよく見てもらいたいんだ。女の子の姿が...」 「えっ?!心霊写真?そういうの苦手なんだけど」彼女はカメラを受け取る寸前で体が固まった。 「いや、そうじゃないと思う。たぶん妖精か何かではないかと」  僕はちょっとしどろもどろになった。 「妖精?ほんと?」  彼女は半信半疑でカメラを受け取ると、しげしげと液晶の画像を見た。 「これって拡大はどうするの?」  彼女が聞いてきたので、僕は操作方法を教えた。  そして、ちょっとの間、彼女は画像を見つめ、続いてこう聞いてきた。 「写真を前後に送るのはどうするの?」  また、僕が操作方法を教えると、今度は彼女はじっくりと前後の写真も拡大しつつ見ているようだった。 「ねぇ、光一。最初の写真の1枚後ろの写真にも写っているよ」  彼女はそう言うとカメラの液晶の画面の一部を指で示しながら僕にカメラを渡してきた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!