第一話 繰り返す思い出 第3節

3/4
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「...私も今日はとっても変な話をするんだけど、」  百合菜は前置きして言った。 「もし、あなたがこの妖精の写真を撮らなかったら、私に電話してこなかったんじゃない?」 (あ...)  僕は一瞬、絶句してしまった。  確かにそうだったかもしれない。と思った。 「ごめん。そうだったかもしれない」  僕は素直に彼女の言葉を認めた。 「私ね、最近、仕事が忙しい忙しいとあなたに言ってたけれど、あなたも結構それを鵜呑みにして、私にあまり連絡してこなくなったよね?...それで、今朝も、私こうして休みなんだけれど、あなたと私ってこれからどうなっていくのかな?なんて思っていたの」  彼女は少々伏し目がちであるが、ちらちらと僕の方を見ていった。  僕は話の成り行きにちょっとドキドキしながら返事をした。 「そうか、そうだね。ちょっと僕も君に連絡することを怠けていたのかもしれない...悪かった。ごめん。これからは、もっと連絡する」  彼女は僕の返事にちょっとの間考えている様子であったが、間もなく話を切り出した。 「...実は、今日相談したいことというのは、私の仕事のことなの」  一瞬、別れ話を切り出されるのかと思った僕は、彼女の言葉に安堵したが、その後の展開は別の方向でまた僕を焦らせることになるのであった。 「あのね、今週末に課長に言われたんだけど、〈君は丁寧に仕事をしているし実績も上げているから、そろそろ社内のSE登用試験を受けてみたら?〉って言われたの」  百合菜はお手拭きを右手の人差し指で(つつ)きながらそう言った。 「え?SEの登用試験?いいじゃな...」  僕が返事をしようとしたときに、スタッフの女の子がちょうど僕たちのテーブルにやって来て、 「おまたせしました。スペシャルサンドの方は?」  と聞いてきたので、百合菜が小さく手を挙げ、その目の前に美味しそうなスペシャルサンドが置かれ、 「こちらがオニオンバーガーです」  と僕の目の前に、こちらも美味しそうなオニオンバーガーが置かれた。  スタッフの女の子はその後、アイスコーヒーとガムシロップ、ミルクを僕たちの目の前に置いて、 「どうぞ、ごゆっくり」と言い残して厨房に去って行った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!