私は必ず勝つしかない

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私は必ず勝つしかない

『ただの石ころなんかに人生の白黒つけさせるわけにはいかねぇんだよ…!』 繊細かつ滑らかな赤毛を携える彼女は心の中で叫んだ。 こんな卑劣な手段を使ってでも、私の美貌を手にいれたいのか…この成金ジジィは…。 いうても、私はまだ15歳だぞ…この純潔を捧げるのはパンダみたいに可愛らしい王子様だって、決めてるんだ…。このロリコン野郎が!ぱ、ぱんだ…!しろ、くろ…。なんちゅう、巡り合わせだよ…。 そもそも、こんな怪しい奴からお金を借りた親父がわりぃのに…。巻き込むんじゃねーよ! 拒んで、牢獄にぶちこんで、頭をとことん冷んやりさせてやりたいとこだが、いっても、私のたった一人の父親だ…。母親が死んでから、一生懸命に育ててくれた…感謝は多大にある! 何とかするしかない…。 黒を引いたら、コイツの嫁…一生涯の性奴隷が待ち受けている。 白を引けば、借金帳消しチャラ…こいつとの関係を断ち切れる。 ホワイトストーン!一択のみ! ある意味、一世一代の大チャンスが今だ! …とは言っても…間違いなく、財布には黒い石が2つ入っている…それは確かな事実だ。 成金野郎は、ニヤニヤしながら、早く引きなさんなぁ…お嬢さんという顔でこちらを見ている…。 私は、傍に突っ立っている親父の表情を観察した…。 だめだこりゃ…完全に震えて、運任せを狙ってるパターンだ…。おいおい、外したら、お前の娘は一生、性奴隷だぞ! 2分の1…舐めたらやばいから! まぁ、今のままでは…100%ブラック人生なわけだが…。 さて、結果を考える前に、策を練らなきゃな…。 「ちょっと…引く前に財布の中身を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」 私はわざとらしく訊いた。 「えっ…黒と白の石が一つずつ入ってるだけだぞ…。外から触るだけならいいが…。すり替えられても困るからな。ちなみに、赤い石は入ってないからな。はっはっはっ…。」 この期に及んで、棚に上げ放題か!貴様は…! まぁ、仕方ない…。 しょうがなく…私は財布を外から触り、固形物が2つ、しっかり入っていることを確認した…。 …だけで、済ませるはずがない! バシッ! 手が滑ったと思わせ、財布を払いのけた! 「あぁっ…!」 コロロン…。 財布からは…黒と白の石が、一つずつ転がってきた…。 な、なんだと!そんな馬鹿な…。間違いなく黒の石を2つ…財布の中に入れていたはずだ…。 私は成金野郎の顔面を窺った。 ニヤニヤ…と不敵な笑みを浮かべている…。 早くその赤毛を指に挟みこみ、たんまり堪能させてくれと言わんばかりの下劣な表情…。 読まれていというわけか…。 駆け引きというギャンブルを…絶対に負けないイカサマを有し、高みの見物で、悦楽を得る…そんなおぞましさが滲み出ていた…。 …そうかよ……。 私の中で、何かがうまれた…。 この勝負…私なりのやり方で勝ちを掴みとって見せる! 財布にカラクリがあることは間違いない…。 財布の中に石は、最低でも黒が2つ…白が一つ…入ってることは間違いない…。 黒を2つ入れたのをわざわざ見せた理由…それは、イカサマをしてないと認識させるため…。疑った結果…正当だと証明されてしまったわけか…。 これにより、財布の構造を念入りに調べる行動自体が封鎖される…狙いはここか…。 勝負を決するのは、財布の中に手を入れる瞬間だろう…。 私は、提案した…。 「黒と白の結果を逆にしませんか?」 成金野郎は、ほくそ笑みながら… 「それでもよいぞ…?」 私は暫くの沈黙の後… 「やっぱり、そのままのルールで結構です…。」 私はゆっくりと深呼吸した…。 …数秒間…目を瞑り…私は全ての理を脳内から外し、その研ぎ澄まされた集中力を一点に結集させた…。 …私は…成金親父の疑惑の財布くじ引きに一心不乱のまま、真正面からぶつかっていった…! ニヤついた…イカサマ野郎の顔は眼中にない…。 財布に手を入れる…。 ……私は…引いた…。 頭上に掲げられた…その石は太陽の光を浴びて、眩しく光っていた…。 『白』 父親は、その場で力が抜け落ち、泣き崩れた…。 成金野郎は、状況を把握できずに…困惑し、驚きを隠せない…。 「なっ、なぜだ!必ず黒い石を引くはずなのに…ど、どうしてだ!」 成金野郎は、悔しさの余り、財布を思いっきり、地面に叩きつけた…! 私は自身のゆったりとした時間の流れを元に戻し…石の結果をゆっくりと目を開け、確認した…。 「ふぅ…私は賭けに勝ったのか…。」 私は優しい口調で続けた…。 「あなたの財布に細工が施してあるのは何となく気づいていたわ…。後は、その仕掛けが何か分かれば勝機があると私は賭けにでたの…。」 「まず、私はあなたの持ち方に着目したわ。最初、石を入れたとき、あなたは財布の上部を掴んでいた…。そして、私が中身の確認を迫ったとき、あなたは財布の下部を支えるように持っていた…。切り換えるポイントでもついているのかしら?」 ギクッ…。成金野郎の表情があわてふためいた。 「落ちた財布を見ると、まだ中に入っていると思われる小石の姿は確認できなかった…その財布の皮の厚みはバレないようにするためでしかない…二重の隠れたポケット構造を…。」 「あうっ…。」 「拾った後は、上部と下部を交互に持ちながら、黒、白の順番で石を入れていたのを確認した…。ただ、どのタイミングでどのポケットに石が入ったのかは、確実性に欠ける…。でも、あれは…恐らく…落ちた衝撃での…故障していないかを確認するための動作…。落とした石は元に戻しただけだと見たの…。」 「か、隠し構造を…そこまで…。」 「仮に、財布に全部で石が4つ入っていたとすると、上部時●●、下部時◯●になるわけなの。上部に切り替えてしまえば確実に黒を引く…。」 「げっ…ぐっ…。」 「イカサマ確認を事前に実施せずに、勝負に移る可能性も考えると、財布の中には、石は4つ入っていての、2パターンと考えるのが妥当でしょうね…。一つのポケットに3個以上入れてるイカサマはないと理解した…。…従ってこうなる…必勝の●●とイカサマ誤認用の◯●…。」 「の…のぉぉぉ。」 「…と思ってたんだけど、実際は3パターンあったみたいね…。用意周到ね…。」 「あぐぅ…。」 「そう…その財布は三重構造だった…。三つ目のパターン…◯◯が隠れていたの…」 「んっ…んむぐっ…。」 「それは、私が引く前にした発言で、明らかになった…黒と白の結果を逆にしないか…ルール変更を提案したとき…あなたは咄嗟に、財布の中心部を握っていたの…。」 「なっ…そこまで…!」 「そして、私は貴方が素早くすり替えができるほど器用ではないこと…このままの石の組み合わせでくじ引きをさせると…直感で理解した…。上部●●、下部◯●、中心部◯◯ の3パターン…。」 「はっぎゃあぁぁぁ…。」 「私は精神を研ぎ澄まし、くじ引きに向かった…あなたは十中八九…うぅん…間違いなく上部を握っていると…。」 「で、でもしかしだ、どうやって白い石を引くことができたんだ?それでは、黒い石を引くしかないはずだ…。」 「…うん…そうなるわね…。だから、私は一点に集中させたの…石を引く右手と…左手に全精力を…。」 「んっ…おっ…えっ…?」 「あなたは、財布の中心部に触られることを無意識に嫌い、回避行動を起こしていた…右手で中心部を覆うように、ガードしていた…。確かに100%白石パターンだからね…。下部が、がら空きだったのはある意味、運が良かったかもしれない…。」 「せやかて…あれ…も…も…しかして…?」 「私は、あなたが好きそうな笑顔と共に、瞬時に左手で、財布の下部に衝撃を与えた…。でも、これは運でしかなかった…。しっかりと細工が作動するのか…。作動した瞬間に、石を掴めるのかどうか…。」 「つっ…つっても…そのポケットの石のパターンは◯●の二者択一…半々の確率…だぞっ!」 「そう…これは…全ての運命が重なって…出来上がった…奇跡の構図だった…。あなたが、もしも下部パターンに●●の組み合わせを選んでいたなら、成立しなかったかもしれない…。」 「に…似たものなどは…。石の形状…素材など、特注品で作った…全く同一のものだ…触って分かるわけがない…!」 「…そう…そうなの…。それは、転げ落ちた石を見て、理解したわ…。あなたならそこまで狡猾にやるわよね…。だから、最後の引く瞬間だけは…選ぶ瞬間だけは…」 「運を天に任せたの…。」 まさに、赤毛の戦慄…。 成金野郎は…見事に屈服した…。ここまで、イカサマの仕組みを淡々と暴露されながら…最後は自身の強運を味方にしてしまったのだから…。 ギャンブル界の赤髪天女が降臨した瞬間だった…。 彼女の窮地で覚醒した…常人離れの瞬間状況把握能力と一切乱れのない精神統一から可能になる超人並の器用力…そして、天命さえも味方にする、史上最強の天運…。 私は一通り語った後、緊張がほぐれ… 「これで、借金はチャラだな!とっと消えな!この、ロリコンイカサマ野郎!この白石が赤石に変わる前にな!!」 「ひっ…!ひぇぇぇぇ…!きゅ、急なキャラ変…こ、こわいよぉぉぉ…!」 成金野郎は一目散にその場から逃げ出していった…。 一部始終を黙って見ていた父親は唖然呆然とし…立ち竦む…。 「さぁて、お父さん!帰ろっか!お腹空いたよー!今晩はトマトカレーが食べたいな。」 これは…彼女が後に伝説のギャンブラー『赤毛のアンナ』として、名をはせる…ただの序章に過ぎない…。 【完】
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