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レコードが止まり、沈黙が響き渡り、時計が再度、刻を打つ。私はハンモックから下りて、シャワーを浴びにゆく。外の空気はひんやりとしている。が寒くはない。夜空には無数の星が輝いている。絶えず星が流れている。月は満ち、辺りは明るい。知らぬ間に降った雨が葉に残っており、月の光で、木々は蛍が佇んでいるかのよう。みなは寝静まっており、畦道からは緩い風が草原を撫でる優しい音が聞こえる。遠い海が夜を癒すように唸っている。夢見る鈴虫は星に向かって歌う。美しい時だ。大きな波が絶えず崖へと打ち付けていようと、その轟きは届かない。この場所は守られている。
中へ戻り、ホットココアを淹れ、私は二階へと上がる。そして、体が冷めやらぬうちに布団に潜り込む。終わりの感覚が体内に鳴り響いている。そっと、夢のない眠りがやってくる。
ここには夢はない。新たな始まりが訪れる地ではない。
私たちは、ただ生を全うする。眠り、目覚め、定められた行いを果たす。日々は繰り返しに過ぎない。光はある。暗闇もまたある。だが、記憶によって再現された世界であるかのように、見知らぬものなどなにもない。目に映る風景、耳を撫でる旋律、胸の内から湧き上がる言葉。全ては、どこまでも柔らかく心地いい。あらゆる存在が近しい。そのたおやかな息遣いは私の心を捉える。至福は常に降り注いでいる。
これが現実だ。私たちは無力である。この世界を変えてなどならない。
どこまでも不条理に、私たちはここで幸福に暮らしている。
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