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第一部 嘔吐/グラウンド・ゼロ
真鍮のランプ。それだけが灯る部屋。ヒーターがうなり続けている。空間は肌を刺す冷気で満ちている。わたしは小さな物書き机の前に腰を下ろしている、パソコンの画面を見つめている。
「やっと繋がった」
長い呼び出し音が止むと、懐かしい声が聞こえる。時折、ザーザー雑音が入る。向こうは晴れているのだから、雨ではないのだろう。ただ音質が悪いだけ。私がパーコレーターからマグカップへコーヒーを注いでいると、彼女はその音を縫い、話しかける。
「元気? 聞こえてる?」
わたしはわたしを思い出す。はっと我に返る。とても丸くて少し繊細な声、粗い複製も、だれのものかをはっきり示している。
わたしの数少ない友だち。まだ連絡を取りたいと思う限られた友だち。明け透けな言葉を交わすことが出来る唯一の友だち。彼女と過ごした時は、このコーヒーみたいに濃い。それが今のわたしを作った。だからわたしはわたしなのだ。
ユズ。
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