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午後八時。
なんとか仕事を終えて、迎えに来てくれた野上さんの車に乗り込む。
国産の黒いミニバンは整然としていて清潔な感じだ。
コタさんの営む『洋食 須崎亭』までは、ここから車で十分もかからない。幹線道路に面していて、わたしも車で何度も通っている。
野上さんの話だと、もともとはメインエリアから外れた場所で営業していたそうだ。けれど駐車場不足や建物の老朽化の問題が深刻となり、コタさんが洋食屋を継いだあと、今の場所へ移転したということだった。
洋食屋を訪れると、シェフ姿のコタさんが、「いらっしゃい」とテーブルまで来てくれた。
テーブルには先ほど運ばれてきたオムレツ、ビーフシチュー、ポークカツレツ、サラダが並んでいる。
「来てくれてうれしいよ、咲都ちゃん!」
コタさんがハイテンションで歓迎してくれた。
だけど“咲都ちゃん”って……? その呼び方はなんだか照れくさい。
「ごめん、咲都ちゃんって呼ぶの、気に入らなかった?」
「いいえ、かまいません。でも、“ちゃん”づけで呼ばれることはあまりないので慣れていなくて。そう呼ぶのは商店街の一部の、それも年配の人くらいなんです」
「そうなんだあ。じゃあ、若者では俺だけってことか」
「はい、そういうことになりますね」
コタさんは「よしよし」と、ご機嫌な様子で言う。
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