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その後、仕事に戻った紅葉さんはスマイル全開できびきびと働いていた。
わたしよりよほどしっかりしている。心の奥では、わたしと冴島さんの関係に傷ついているのに……。
「紅葉さんっていい子ですよね。仕事を立派にこなしていて、つくづく自分が恥ずかしくなります」
「春名さんだって立派だよ。自分のお店を必死に守って大切にしてる」
野上さんはそう言ってくれるけれど、まだまだ未熟なのは自分でもよくわかっている。
「いいえ、店の経営者になるのはまだ早かったんだと思います。もしかすると、早い遅いの問題でもなかったのかもしれません。もともと向いていないのかも」
「どうしてそう思うの?」
「今日も大きなミスをしました。今日だけじゃありません。これまで何度も」
うちの店の場合、バレンタインデーやひな祭りの季節にあまり花は売れない。それを知らず、売れると見込んで大量に仕入れて失敗した。かなりの花を廃棄することになり、その月は大赤字だった。
イベントのある月でも売り上げが伸びるかそうじゃないかは店によって違う。それは立地や客層、その年の傾向などから売り上げを予測し、さらに経営をしながら把握していかなくてはならないことだと知った。
「アルバイトの子のほうがしっかりしていますし、経営者に向いています。センスがあるんですよね。わたしにはないものを持っていて、ミスもほとんどしないんですよ」
「アルバイトの子って、今日お店にいた男の人?」
「はい。たまに思うんです。彼が店長だったら売り上げが今よりよくなるんじゃないかって」
情けないと思いながらも口から吐き出されるのはマイナスのことばかり。それでも野上さんとコタさんはあたたかな眼差しで話を聞いてくれた。
「愚痴ばかりですみません。こんなことまで話すつもりはなかったんですけど」
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