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「たまにはいいじゃん。咲都ちゃん、今まで誰かに愚痴ったことないでしょう? ひとりで溜め込んでいると、そのうちパンクしちゃうよ」
「コタさん……」
「ミスなんて誰にでもあることだよ。失敗を繰り返してのちに大成功をおさめるっていうパターンなんてざらにあるだろう? 実際、一度会社を潰しちゃった社長もたくさんいるよ」
「はい、それはよく聞きます」
野上さんもそんなことを言っていた。そこそこ大きな失敗を経験したことのない経営者は逆に大物になれないと。
「冴島も昔はかなり苦戦してたよ」
「冴島さんが?」
「大口の取引先が倒産して、銀行の追加融資も受けられなくなって八方塞がりになったんだ」
つまり会社が倒産する寸前だったということだ。そんなに大変なことがあったなんて。
「でもそれは取引先の動向にしっかりアンテナをはっていれば防げたこと。ほんと簡単なことだったんだよ。なのに冴島は自分を過信していた。だから失敗した」
コタさんの言葉を少し冷たく感じる。
でもコタさんの言っていることは社会の常識。きっとこの場合、負債を最小限にするための対策はいくらでも取れたはずということを言いたいのだ。
「それでどうやって、冴島さんは危機を乗り越えたんですか?」
「あいつはそれまで一切使わなかった冴島物産の名前を出してきたんだ。それでなんとか融資先を見つけてしのいだんだよ」
「プライドが高いくせに、それはいいのかよって。あのときは驚いたよな」
コタさんと野上さんは顔を見合わせて笑った。
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