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冴島物産の名前を出して、融資や契約を取りつけた話は本人からも聞いていた。だけどそんな窮地に追い込まれていたときの話だとは思わなかった。
「でも、冴島の決断は最良だったと思えるようになった。結果的に会社だけでなく、社員やその家族を守れたんだから。取引先にも莫大な損害を与えるところだった。冴島が背負っていたものは、あのときの俺たちが考えていたものより、とてつもなく大きいものだったんだよ」
コタさんはまじめな顔つきだった。
「あの頃は僕もコタもサラリーマンになりたてで、秋成の力になれなかったんだ。だから秋成はいろんなところに頭を下げてまわったんだよ。若いってだけで信頼されなくて、屈辱的なことも言われたと思う。それでも親に泣きつくよりは、と思ったのかもしれないね。親を利用することを選択したのは最終手段だったんだと思う」
野上さんが悔しそうに言う。
ふたりから冴島さんを大切に思う気持ちが伝わってきて、それはわたしの心も和ませてくれた。
そして冷静に物事を考えられるようになって、自分を見つめ直すこともできた。
誰にだって悩みや苦労がある。冴島さんのようなパーフェクトな人ですらそうなのだから、わたしがすんなりといくわけがないのだ。
「だけど秋成はゆくゆくは冴島物産に戻るつもりなんじゃないかな」
ふいに野上さんがそんなことを言い出した。
「どうしてそう思うんですか?」
野上さんが言っているのは、要するに冴島物産の重役職に就くという意味だ。
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