8.信じる力

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「自分の会社を大きくしたところで冴島物産の傘下になった。たぶん将来的には吸収合併もあり得ると思う」 「でも冴島さんなら独立してやっていけますよね?」 「本人から聞いたわけじゃなくて、あくまでも僕の推測なんだけど。秋成が起業したのは、冴島物産を別の方向から支えたいと思ってのことじゃないかな」 「別の方向から支える?」 「実は、冴島物産の業績はここ数年下がってきているんだ。秋成はそれを何年も前から見越していたんだよ。アジアなど他国のめまぐるしい技術の進歩で、いずれ冴島物産も安泰といえない時代に突入することを」  冴島テクニカルシステムズの所持しているいくつもの特許権、開拓した市場、ノウハウ、技術。それらを提供することで冴島物産にメリットを生み出す。  冴島テクニカルシステムズにとっても同じことが言える。また総務などの事務部門の部署を集約させ、インフラも整備することでコストが削減される。さらに、会社が大きくなることで企業価値が上がり、技術者の流出を防ぐことができるということだった。  あくまでも野上さんの主観だけれど、納得できる内容だった。  冴島さんは何年も先になにが起こるかを分析して、会社を経営している。  わたしの場合、将来はなんとなくこんなふうにしたいな、なっていたらいいな……というゆるい考えだったように思う。プライベートに左右されてミスをするなんてもってのほか。もっと責任を自覚しなくてはならないんだ。
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