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すごい人がいるものだ。彼女はわたしが出会ったことのないタイプの女性だ。自信家で自分がこの世で一番美しいと思っている。
その通りではあるのだけれど。普通は単なる傲慢な人間となるところ、彼女の場合は潔すぎて逆に惚れ惚れする。
でもこんなふうに思えるのも、冴島さんが彼女にまったく興味がないからなのだろう。レセプション会場でわたしが見た光景もわたしの勘違いだったのだと確信できた。
「申し訳ありません。役員会議室に人が残っているとは思わなくて」
秘書室はガラス張りなので、この騒ぎに気がついたのだろう。小山田さんが血相を変えて駆けつけてきた。
「いや、悪いのは時間外に役員会議室を使っていた瑠璃だよ。小山田さんは戻っていいよ」
「ですが……」
「ここは僕が注意しておくから」
「かしこまりました」
小山田さんは一礼すると、わたしにも頭を下げた。半ば放心状態だったわたしも慌てて小山田さんに目礼する。
そして小山田さんが秘書室へ戻っていったのだが、あまりにも衝撃的な光景だったので、わたしは冴島さんに再び声をかけられるまで、脱力したまま立ち尽くしていた。
「ほんと、恥ずかしいところを見せちゃってごめんね」
「いいえ。びっくりしましたけど、だいぶ落ち着きました」
あのあと無事に役員会議室の生け込みを終え、久々に冴島さんとお昼ごはんを食べている。
場所は前にふたりで訪れた会社近くの馴染みの定食屋。日替わりの鯖味噌定食をふたつ注文した。
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