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「咲都」
「はいっ!?」
突然、下の名前で呼ばれ、反射的に顔を上げた。
「名前で呼んでみたかったんだ。いい?」
「はい、もちろんです」
だけど、ますます顔がほてり、もう食事どころではない。胸がいっぱいになって、涙が浮かんできた。
だって幸せなんだもん。好きな人に名前を呼ばれることがこんなにも感動することだったなんて、初めて知った。
「今回のことは反省してる。瑠璃のことで、それだけ咲都を追いつめてたってことだよね」
「えっ?」
わたしの涙を見て、冴島さんは勘違いしたようだ。申し訳なさそうに眉尻を下げている。
わたしは涙をぬぐい、「違うんです」と必死に否定するも、次から次へと涙がこぼれてきてしまい自分では手に負えない。そのうちまわりのお客様にまで注目されてしまった。
「どうした? 喧嘩かい?」
とうとう見かねた店主の武藤さんがテーブルまで来る始末。
「いいえ、喧嘩じゃないんです!」
でも武藤さんは怖い目で冴島さんをまじまじと見た。
なんでこうなっちゃうの?
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