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「ちょっと兄ちゃん。どんな理由なのか知らないけど、女の子を泣かせちゃだめだよ」
「武藤さん、誤解なんです」
勘違いしている武藤さんを止めようとするも、「おじさんにまかせな」と聞く耳を持ってくれない。
しかも「兄ちゃん」だなんて。彼があの冴島物産の創業者一族であることを知ったら、きっと腰を抜かすだろう。
「俺は咲都ちゃんが赤ん坊の頃から知ってるけどよ、まじめでがんばり屋で親孝行で、本当にいい子なんだよ」
「武藤さん、やめてください。これは──」
「咲都ちゃんは黙ってろ。かわいそうに、こんなに泣いて」
すると冴島さんの顔が引きしまる。そしてきっぱりと言った。
「もう泣かせませんから。彼女を幸せにするとお約束します」
冴島さん? 違うのに……。
違うんです。わたしが泣いたのはうれしかったからなんです。もし冴島さんに裏切られていたら自分はどうなってしまうのだろうと怖くてたまらなかったから、今のこの時間が幸せで安心できるんです。
だけど、うまく言葉にできない。
武藤さんは冴島さんの言葉に一瞬呆気にとられていたけれど、彼の真剣さを感じ取り、心を動かされたようだった。
「男に二言はないな」
「もちろんです」
「今度泣かせたら、商店街の連中が黙っちゃいないからな。みんなで咲都ちゃんの恋愛を応援しようって一致団結したところなんだよ」
商店街のみんなで? しかも、わたしの恋愛を応援?
わたしって、そこまでされるほど心配されていたの?
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