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「武藤さん、いくらなんでも大袈裟ですよ。もう子どもじゃないんですから」
「なに言ってんだよ、咲都ちゃん。ようやくできた彼氏が変な男だったらどうするんだよ?」
「変な人じゃないので安心してください」
「でもつき合って、まだ半月ぐらいなんだろう? そんなんで相手のことがわかるもんか」
「わかります──っていうか、つき合って半月ってどこからそんな情報を?」
冴島さんとここに来たのは一ヶ月ほど前のことだ。
「そんなの決まってんだろう。塔子ちゃんから聞いたんだよ」
「やだ、お母さんったら……」
商店街の集まりがあったときに嬉々として語っていたらしい。
この間の日曜日のデートから帰ったあと、塔子さんに「どうだった?」としつこく聞かれ、そのときに少し前からおつき合いしていると報告をしたのだけれど。なにも商店街の人たちにまで話すことないじゃない。
「冴島さん、すみません」
「みんなに愛されてるんだね。でも僕のこの気持ちは誰にも負けないよ。これからは不安にさせないくらいに、咲都のことを大事にする」
「冴島さん……」
だけど、わたしは十分なくらいに大事にされていた。これ以上、大事にされたらわたしはどうなってしまうのだろう。
「そういうことです。なのでご安心を」
冴島さんが武藤さんからのプレッシャーを軽々とはねのけた。
言い方はやわらかいのに自信に満ちた顔。逆に武藤さんがたじろぐほどだった。
「兄ちゃん、顔に似合わず男気があるなあ。そこまで言うなら信じるよ。とにかく咲都ちゃんをよろしく頼むな。俺は咲都ちゃんの父親からなにかあったら力になってほしいって言われてんだよ」
「お父さんが!?」
わたしは驚きのあまり、武藤さんの腕をすがるように掴んだ。
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