4646人が本棚に入れています
本棚に追加
「その話をしたのって、いつのことですか!?」
武藤さんには日頃から商店街の運営のことなどでお世話になっているけれど、父も個人的なおつき合いはそれほど深くなかったはず。それなのにわたし個人のことを頼むだなんて、違和感がある。
武藤さんは少しさみしそうに微笑むと、静かに話しはじめた。
「春名さんはもし自分が死んだあと、咲都ちゃんが花屋を継ぐことになったら、どうか面倒を見てやってくれって頼みにきたんだよ」
自分が死んだら……。そんなこと、わたしの前では言ったことないのに。
「父がそんなことを言っていたなんて、なんだか信じられません」
花屋の仕事に関しては厳しくて、店を手伝うわたしにだめ出しばかりだった。わたしに期待なんてしていないふうで、花屋を継げと一度も言わなかった。
「俺だけじゃないよ。商店街のみんなに……一人ひとりに頭を下げてたよ。痩せ細った身体で、青白い顔で……。春名さん、どんなに心残りだったか。本当は自分でいろいろ教えたかったんだろうな」
「お父さん……なに言っちゃってんだろう。最後までわたしのこと……ぜんぜん信頼……してなかったんじゃない」
涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。反抗的なことを口にしながらも本音はうれしくてたまらない。
わたしが花屋になるってどうしてわかったの? お父さんが生きていた頃は、花屋になろうなんてこれっぽっちも考えていなかったんだよ。むしろ花屋が大嫌いだったんだから。
最初のコメントを投稿しよう!