4646人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます」
「なにが?」
「手をつないでくださって」
冴島さんがつないでいた手を一度離し、再びわたしの手を取ると指も絡ませた。うれしそうな顔を見て、わたしは素直に自分の気持ちを打ち明けることにした。
「わたしも自信をなくしていました」
定食屋で冴島さんもそんなことを言っていた。結局、具体的な話を聞くことはできなかったけれど。
「日曜日のデートの帰り際、なんとなく距離を感じたんです。その日の冴島さんはやさしくて、わたしを楽しませようとしてくれていたのに……」
「ああ、あのときか。あのとき……自制したんだ」
「どういうことですか?」
言っていることが理解できなかった。
「船の上で咲都に避けられて、罪悪感みたいなものを感じたんだよ」
罪悪感? それはどういうことなんだろう。
「わたし、避けた覚えはないんですが」
「わかってる。咲都はたぶん戸惑っていたんだと思う」
「あっ……」
船のデッキでストールを肩にかけられて、すごくいいムードになって、気持ちも高ぶっていた。冴島さんを真正面から見られなくなって、きっとそのとき避けるような態度をとってしまったのかもしれない。
「たしかに戸惑っていました。でも悪気はなかったんです。ああいう雰囲気に慣れてなくて」
「僕も男だから。大事にしたいと思う反面、無性に自分のものにしたくなるんだ。でも、毎回自分の気持ちを押しつけるのもどうかと思って。そのことが素っ気ない態度に映ってしまったのかな」
最初のコメントを投稿しよう!