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その日の夜遅く、冴島さんのマンションにおじゃまさせてもらった。
結局、冴島さんの仕事が忙しく、わたしも残業で、会えたのは午後九時半をまわった頃だった。
外で食事をして、こうして冴島さんの部屋に来たのはいいけれど、ふたりきりになった途端、妙に意識してしまい、目が泳いでしまう。
「疲れた?」
ソファが軽く揺れ、ローテーブルにあたたかい紅茶が置かれた。
思いのほか近い距離に冴島さんの顔があって困ってしまう。
「いいえ。そう見えますか?」
「なんか元気ないみたいだから」
退屈そうに見えたのだろうか。わたしは明るく振る舞う。
「大丈夫です! ぜんぜん元気です!」
「無理することないよ。今日はいろいろあったからね。でもどうしても会いたかったんだ」
「わたしもです」
素直になるのはけっこう大変だ。慣れなくて、まともに顔を見ることができない。ごまかすように、出された紅茶を飲んだ。
「咲都」
「はい?」
「僕も緊張してる。でもこれが人を好きになるってことなのかなと思うんだ。あとは自然の流れにまかせて、緊張がいつの間にかなくなって、ただ一緒にいるだけで満たされる関係になっていくんだと思う」
冴島さんがゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
深い想いのこもった言葉は胸の奥をじんわりとあたたかくしてくれる。やっぱりわたしはこの人のことが好きだ。
この先の未来もずっと一緒に……。そうだったらいいなと思った。
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