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わたしに気を使ってというのもあったのだろうけれど、本当に気楽な集まりなのかもしれない。
大学時代の友達と今でも交流があるなんて、どれだけ仲がいいのだろう。わたしはみんな疎遠になってしまった。年賀状のやり取りぐらいでしか交流がない。
「あとさ、手ぶらでいいからね」
「えっ?」
「プレゼントはいらないから。そのことはみんなにも言ってある。それに春名さんと過ごせるだけでうれしいから。俺には十分すぎるくらいだよ」
冴島社長はとろけてしまいそうなほど甘くささやいた。見上げた先にある瞳はわたしを見つめている。
冴島社長はパワーのある人だ。遠慮していると飲み込まれてしまう。わたしはもはや恥ずかしさを通り越して、負けるものかという反発心で見つめ返していた。
「あのー、おふたりさん。俺がいることをお忘れじゃありませんか?」
「えっ、あっ! やだっ、ごめん。別に忘れてたわけじゃなくて……」
「それにその手、いつまで握ってるんですか?」
「や、やだ!」
榎本くんに言われ、初めて気がつき、急いで握られていた手を引っ込めた。
でも慌てているのはわたしだけのようで、冴島社長は涼しげな顔でちっとも動じていない。
どれくらい手を握られていたのだろう。
数十秒? 数分?
でもそんな感覚もなくなってしまうくらい、冴島社長に夢中になっていたのは事実だ。
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