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「お互いに見惚れてたって感じでしたけど。でも店のなかでは勘弁してくださいね。そういうのはふたりきりの場所でお願いします」
榎本くんは言い終わると、すっきりした顔で店先の鉢物をしまいはじめた。
「もう、榎本くんたら……。すみません、生意気な口をきいて」
「いや、彼には感謝してるよ。覚悟はしてたけど、かなり苦戦しちゃったから」
「苦戦だなんて、そんな……。誘っていただいてうれしいです」
榎本くんのおかげで、わたしはすっかりクールダウン。でもそのせいで、自分のことを冷静に見つめることができた。
冴島社長はストレートに気持ちをぶつけてくれるけれど、わたしにそれだけの価値があるとは思っていない。家柄も才能も見た目の美しさも、すべて彼のほうが圧倒している。
だからいまだに信じられないというか、ピンとこない。
なんだか夢のなかにいるみたいで……。
わたしの連絡先を伝えると、冴島社長はそれをスマホに登録していた。
「僕の番号はわかるよね?」
「前に頂いた名刺にあった番号ですよね」
「なにかあったら連絡して」
「わかりました」
名刺は大切に保管している。いつも持ち歩いている仕事用の手帳に挟んであって、そんなことをしていた時点でわたしの心は冴島社長に傾いていたのかもしれない。
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