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冴島社長が帰ったあと、榎本くんが言った。
「立ち聞きしちゃってすみません。最初、樫村さんといい感じになりそうだったから、うまくいけばいいなあって思ってたんです。でも裏に魂胆があったんですね」
「ううん、いいの。それに榎本くんは、わたしのだめなところも情けないところも知ってるんだから、今さらだよ」
手を握って見つめ合っているところまで見られてしまっては開き直るしかない。
「だけど冴島社長が来てくれてよかったですよね。咲都さんが騙されずにすんだんですから」
「そんな人には見えなかったのにね」
「そうなんですよね。咲都さんのこと、本気で好きっぽかったのに。俺の勘、はずれちゃいましたね」
榎本くんがほうきで手早く掃除を開始する。わたしはレジ締めをし、今日の売上金の確認をした。
今日はそれほど忙しくなかったので、売り上げもそれなり。がっくりと肩を落としながら明日の仕事の段取りを考える。
朝一で仕入れに行って、そのあと水あげ。予約品の製作もあるので、今日よりも忙しくなるのは確実だ。
よし! 明日は今日よりも売り上げアップを目指すぞ!
「榎本くん、掃除が終わったら今日はもうあがって」
「わかりました。咲都さんもあがりですか?」
「わたしは陳列用のアレンジメントを作ってから帰る」
「俺も手伝います」
「ううん、大丈夫。その分、明日はうんと働いてもらうから」
「了解です」
白い歯を見せ、笑みをこぼす。このさわやかスマイルは天性のものだ。
つくづくいい子だなと思う。榎本くん目的で店に来る女の子もちらほらいるけれど、お客様に手を出しているふうではなく、プライドを持って仕事をしているのがわかる。フリーターにしておくのはもったいない。
いつか、本人が希望するのなら榎本くんを社員にできるようがんばろう。
わたしは新たな決意を胸に、もう一度気合を入れた。
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