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「アキちゃん…話があるんだ」
俺はとうとう学校の帰り道にアキに切り出した。やはりセナの事が気になってしまって仕方がない。
…別れた筈だろう?
そう何度も自分に言い聞かせてみたがダメだ。
「俺…やっぱり…。」
俺の言葉が終わる前に、アキが話し出した。
「判ってました…。だから付き合って下さいって言わなかったんです。」
…へ?
俺は思わずアキを見た。
「私…ズルいんです。」
俺たちの歩く速度は自然にゆっくりとなった。
「優柔不断な俺がいけないんだ。本当にゴメン。」
俺は煮雪の言葉が気になって仕方が無かった。
「付き合ってって言わなければ別れることも無いと思ったから、だって付き合っていないんですもの。」
…アキちゃん。
俺は初めてアキにとても気を使わせていたことに気が付いた。
「お弁当を作ったり一緒に下校したり、とっても楽しかったです…でも同時に辛かった。馳目先輩はセナさんのことまだ好きだから。」
アキは俯き、俺の顔を一度も見なかった。
「アキちゃん…本当にゴメン。」
バス停が見えて来た。
「謝らないで下さい…惨めになりますから。」
アキは無理に笑った顔を作って俺に見せた。
「それにさっき…私言いましたよね?…付き合ってませんよ?」
その笑顔が段々と歪んでいく。
「ごめん…。」
アキは真面目でいい子だ。だけど、俺はやっぱりセナじゃ無いと駄目なんだ。人をこんなに傷つけてから気がついた俺は、本当にバカだ。
「もう良いです。私こそ、馳目先輩が優しいのを知ってて、気が付かない振りをしてたんです」
「本当にゴメン」
俺は深々と頭を下げた。
「馳目先輩…最後にお願い聞いて貰って良いですか?」
アキは自分がズルいと言ったが、本当にズルいのは俺だ。
「俺に出来ることなら。」
ゆっくり頭をあげると、アキは真っ赤な顔をしていたが、一生懸命に微笑んで見せた。
…優しくて大人しいアキを好きになれたら、どんなに楽だっただろう。
「では…。」
アキは言葉をしっかりと区切った。
「キス…してくれますか?」
…俺の聞き間違いだろうか?
俺の傍に来て、制服の袖をそっと掴んだ。
…アキちゃん。
「お別れのキスを下さい。私…そうしたら諦めますから。」
アキは目を閉じてからも少し震えていた。俺はアキに静かにゆっくり近づくと、額にそっとキスを落とした。
「アキちゃんの初キスは、本当に好きになった人に取っておいた方が良いよ。」
緊張、悲しみ、落胆、安堵。アキの表情から色々な感情が見て取れた。
「優柔不断なことして本当に済まない。」
アキが乗るバスがやって来るのが見えた。
「いえ…良いんです。判ってましたから。どうぞ気にしないで下さい。」
アキは開いたドアに吸い込まれるようにして振り返らずにバスに乗った。
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