86人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はその足でセナの家に向かった。
――― ピンポーン。
玄関のチャイムを押した。
(はい)
セナの声だ。
「馳目です。話があるんだ」
「…ちょっと待ってね」
セナはすぐに玄関先に出て来た。
…俺は、守ってやるとは言えない。
バッグの中をゴソゴソと探った。
「突然ゴメン。だけど…渡したいものがあって。」
俺がそれを手渡すと、セナはきょとんとした顔をした。
「これ、いつも必ず忘れずに持って行って。それから何度も言うようだけど、煮雪には絶対近づいちゃ駄目だ」
セナはスタンガンを受け取ると、何も言わず俺をじっと見つめた。
「判った」
俺が出来るのはこれぐらいだ。
「じゃぁ…。」
俺はその足でユカの所にも行く予定だった。
「佑くん…。」
セナに呼び止められ、俺は振り返った。
「1年生の子と…付き合ってるの?」
「ううん。付き合って無い。一緒に帰ってただけ…それじゃぁ。」
俺はユカの家へと向かった。
「あら佑ちゃん珍しわね。どうぞ。今ユカを呼ぶわ」
おばさんはすぐに俺を入れてくれた。
「どうしたの?」
ユカがすぐに来て俺を見て驚いた。
「ちょっと話があるんだ。」
俺はユカの部屋へとお邪魔した。ユカのおばさんが、おせんべいとお茶を運んできてくれた。おばさんが部屋を出てから俺は話し出した。
「あの可愛いアキちゃんのことで相談?」
ユカが笑った。
「付き合ってないし。」
ユカの部屋は、アイドルのポスターや、好きなキャラクターなどの縫いぐるみで、これぞ女の子!という印象を受けた。
俺はたったひとつの事だけを確認に来たのだ。
「えっ…。」
「…やっぱり俺、セナがまだ好きだから。女々しいと思われても、やっぱり好きだ。」
ユカはそんな俺をせんべいを食べながら笑った。
「佑くんは相変わらずだね。」
どうやらユカは、もう援交はしていないようだった。
「お前…もう援交なんてするな。自分の身体を大切にしろ。俺はわかる。お前があの大学生の彼氏の事本当に好きだったこと。」
ユカの顔から笑顔が消えた。
「わざわざそんなことを言いに来たの?」
ユカは俺をじっと見つめていた。
「俺…セナにずっと黙ってたんだ。病院へ行った日のこと…他の誰かに知られるのは嫌かも知れないけど…でもセナに誤解されたままのは嫌だ。だから、あの日のこと…。」
「そっか…わかった。」
ベッドに腰かけて、足をぶらぶらしながらユカが笑った。
もしもユカが良いと言ってくれるのなら、セナともう一度ちゃんと話そうと思った。
「あーあ。佑ってさ…やっぱり真面目だよね。」
ユカは、大きな縫いぐるみを抱えてベッドにころんと横になった。
「あたしさ…佑を来栖さんに取られちゃったような気持になってたの。だって佑は、あたしのことずーっと好きでいてくれたじゃない?」
「た…確かに…そうだけど…それを自分で言うか?普通…。」
俺は、ユカのあっけらかんとした性格というか、自分の気持ちに正直なところも好きだったし、これはこいつの長所だと思ってた。
「だって…ホントのことでしょう?」
人をからかって楽しそうにするところは、ちょっとSっぽいけど。
「そうだったけど」
「嫉妬してた…のかも。うん。来栖さんに嫉妬してた」
…えっ。
「来栖さんのこと大切にしていたの判ったし、佑がとっても好きだってことも…あたしは、そんな風に彼氏に思われた事無いから。羨ましかったの…かも?」
「な…なんだよ…それ。お前の方がモテてたじゃん」
「一生懸命好きになったことはあったけど、一生懸命好きになられたことは無いから…佑と来栖さんを見てて羨ましかった」
「相手の気持ちを変えることは出来ないけど、好きでたまらない気持ちだけが確かなことだから、意地を張らないで正直になろうと思ったんだ。自分より誰かのことが好きって、面倒だけどさ」
…そうだ。あの時に、面倒臭がらずにちゃんと言えば良かったんだ。信じて貰えるように。最大の努力をしてなかった。
「佑が来栖さんのことを大好きなことがよーく判った。だから…キスしてくれたら病院のこと言って良いよ」
ユカはいきなり俺に抱き付いてきた。
「わっ…ちょっと」
テーブルの横に押したされて慌てた俺の足がテーブルに当たり、お茶が零れた。
「うわっ!熱っ」
足にお茶が掛かり飛び起きた。
「ユカ…お前…火傷しなかったか?」
ユカを見ると濡れていないのでホッとした。
「お前何やってんだよ。熱っちいじゃねーか。馬鹿」
ユカと対面座位。
慌てて押しのけ、傍のティッシュをとって慌てて自分のズボンを拭いた。
「…無理だ。お前とは出来ない。ゴメン。」
倒れた湯飲みを元に戻しながら、目の前にあるユカの顔を見て俺は言った。ユカが少し微笑んで、再び俺に抱き付いてきた。
「うああ…ちょっと。待て…早まるな!」
「じゃぁ…暫くこうしててくれる?そしたら諦めるから。」
ユカの髪からはバラの香りがふわりと漂い、押し付けられた胸はセナよりもだいぶ大きかった。
…これは…マズイ。
「ねぇ…さっきからあたしのお腹に硬いのが当たってるんだけど?勃っちゃった?」
ユカが笑った。
「あーっと…これは仕様…だ。どうすることも出来…ぐえっ。」
ユカは俺の首に腕を回し、再びしっかりと抱き付いた。
最初のコメントを投稿しよう!