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セナは渡り廊下でユカを待っていた。音楽室の方から煮雪がやってきた。
「来栖さんどうしたんですか?こんなところで…。」
優しい笑顔を浮かべてセナに声を掛けた。
「あ…友達を待ってるんです」
セナはユカに突然呼び出されて、緊張して居た。
「そうですか」
煮雪がセナの隣を通り過ぎると、ふわりと爽やかなウッディ系の香りがした。
「あ…あなたテニスをされているそうですね?」
「あ…はい」
「僕も以前通っていたんですが…あなたの行っている教室のレッスンはいつ?」
「えーっと。大人は月水金…、その中で週に2回都合がつく曜日で行ってます」
「そうでしたか…僕もまた始めようかと思って。どうもありがとう。彼氏さんと一緒に通っているんですか?」
にこにこと優しい笑顔を浮かべていた。中性的な魅力も何処と無く残るけれど、大き過ぎて良く動く眼は、言葉とは裏腹に鋭かった。
「いいえ…。」
セナは咄嗟のことで、何と答えて良いのか判らず、慌てて目を伏せた。
「そうですか…では。」
煮雪は校舎へと歩いて行った。ユカが校舎からやって来るのが見え、煮雪と何か話をしてこちらへとやって来た。
「待たせちゃってゴメン」
ユカは、素直に謝った。
「あの…話って…。」
セナは、緊張した面持ちだった。
「あたしね…夏にレイプされたの。」
ユカは突然話し始めた。
「えっ」
セナは思わず目を見開いた。
「佑とあなたの喧嘩になった原因。佑があたしのことを助けてくれたの。相談に乗って貰ってあたしが抱き付いちゃったの。それを見てあなたが勝手に勘違いしたってわけ」
セナは何といってよいのか分からず黙って聞いて居た。
「それから…あたしね大学生の彼氏が居たの。佑は全く関係ないの。付き添いが必要だからって言われて、当日、急に佑にお願いしただけ。ほら…佑って責任感が強くて面倒見が良いじゃん?友人のあたしでも助けようとしてくれたの。」
セナの顔から緊張が解けた。
「でも…。」
「ええ…仲が良いあなた達にあたし嫉妬したの。佑も馬鹿正直だから、病院へ行ったこと、あなたに聞かれても言わなかったでしょ?」
ユカは、いつもとは違って横柄な態度では無かった。
「ええ。」
「この間も突然家に来てね、あたしと病院へ行ったことをあなたに話しても良いかってわざわざ聞きにきたの。」
「じゃぁ…あたし…。」
「そういうヤツなんだよ。佑は。おまけに、無理やり膝に乗ってキスしてって言っても、セナの事が好きだ。お前とは出来ないって…勃起してんのに。」
セナは思わずクスッと笑った。
「だから、佑のこともう少し信じてやって。それにあなた達、ひとりで悶々と考えてないでお互いにもっと話し合った方が良いと思う。あたしの言いたかったことはそれだけ…じゃぁね。」
ユカは、そのまま踵を返した。
「山岸さん…ありがとう…。」
その言葉を聞くとユカは、一瞬立ち止まったがすぐに歩き出した。
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