木川ひよし『箱根、八時か三時、どう？』

　来週水曜日、神奈川へ出張。

　ここんとこ、休日出勤の代休も取れていなかったので、出張前日の火曜日に、代休を入れさせてもらうことにした。

　せっかく、何年ぶりかの神奈川なので、前日に入って、街ブラしたり、温泉に浸かったり、前泊して、少しゆっくりさせてもらおうと思っている。

　あ、そうだ！　

　神奈川と言えば、箱根！　もう何年と会っていないけれど、同級生の木川ひよしくんが、確か、箱根の温泉旅館で働いているとか、年賀状に書いていたな～。ちょっと、連絡してみるか。

｢あ、もしもし、木川くん！｣
｢よぉ～！　久しぶりだね～！｣
｢来週水曜日に、神奈川へ出張でさ、せっかくだし、前日の火曜日に神奈川へ入ってさ、ゆっくり観光しようと思ってるんだけど、火曜日の夜、久々にちょっと飲みに行かない？｣
｢♪やだねったら、やだね！♪｣
｢おいおい、そんな冷たいこと言うなよ～｣
｢いや、違うんだよ～。来週の勤務シフトがさ～、夜勤や遅番ばっかりでさ、夜に飲みに行くってのが無理なんだよ｣
｢あ、そうなんだ～｣
｢おまえ、確か、食用油の営業だったっけ？｣
｢そうなんだよ～｣
｢何の油だったっけ？｣
｢♪菜種(なたね)ったら、菜種♪｣

　こいつ、わざと言わしてやがるな。

｢そうだな～……、来週の火曜日だったら～……、夜勤明けの朝に、モーニングでも食べに行くか、火曜日の夜も夜勤なので、その出勤前に、ちょっとお茶でも行くかだったら、ちょっと時間取れるよ｣
｢そう！　忙しいとこ、悪(わり)ぃ～な～！｣
｢いえいえ、大丈夫だよ。来週、ドラマの撮影が、うちの旅館でちょっとあってさ、その準備で忙しかったりするわけよ｣
｢へぇ～、そうなんだ～！　俳優さん、誰来んの？｣
｢♪綾瀬(あやせ)ったら、綾瀬♪｣
｢えーーーッ！　綾瀬はるか！　マジでーーーッ！｣
｢♪生瀬(なませ)ったら、生瀬♪｣
｢えーーーッ！　生瀬勝久(なませ・かつひさ)も来んの！　マジかよーーーッ！　両方サインもらっといてよ～ッ！｣
｢♪やだねったら、やだね♪｣

　まぁ、そらそうだわな～。

｢じゃあ～、木川くんの夜勤明けか、夜勤明け一眠りしてからの出勤前かってことで！｣
｢すまねぇ～な～｣
｢いやいや、こっちこそ、無理言ってすまねぇ～よ～！　じゃあ、どこで、何時に待ち合わそうか？｣
｢♪箱～根～～～、八～ぃ時～ぃか～ぁ、三～時ぃ、どぉぉぉ～う～～～？♪｣
｢どっちゃでもええです……｣