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岡田俊行は参道求の家に着くなりにいつも事件の相談をするリビングルームでは無く、二階の書斎に通された。書斎の中央にある机には「あゆみ」と書かれたピンク色の卒業アルバムが置かれていた。
「立派な書斎だな」
「親父が読書家でね、この家引き継ぐ時にこの本達も全部引き継いだよ」
岡田俊行は書斎を見回した。大半が分厚いハードカバーの本であった。背表紙は誰もが知っているタイトルの本ばかりであったが、それに挟まって実用書や政治本などもチラホラと混ざっていた。
「まぁ座れよ」
参道求はいつもより低めのトーンの声で言った。その声に恐れを覚えながらゆっくりと黒革の長椅子に腰を下ろした。
「梅本…… 尚史に間違いないのか? 被害者」
「宝美会病院に残ってたカルテと被害者の傷跡が一致してるんだよ」
参道求は卒業アルバムを開いた。そして一つの顔写真を指さした。
「これが梅本だけど、本当に間違いない?」
岡田俊行はその指さした先の顔を見た。結論から言うと間違い無かった。今朝から見ていた青ざめた顔、その顔が標本としてバラバラになるまで見ていたから忘れるはずがない。
脳内に解剖の光景が過り軽く口を押さえる。
「そっかぁ…… 死んじゃったんだ」と、参道求は棒読みとも無関心とも言えないような声で無感情で言った。
「友達だったのか?」
「違う。全く以て付き合いは無かった」
「それでもクラスメイトだったんだからどんな奴かぐらいは」
「強いて言うなら嫌われ者?」
「顔だけ単純に見ると嫌われる要素は無いと思うんだけどな」
「この顔で自称美少年って言ってたらどう思う?」
「なんか腹立つな。死者に対して失礼な事は言いたく無いがゾウリムシみたいな顔してる」
「この顔で自分を美少年と言ってたんだよ」
「ネタ…… だろ? 日曜の落語のアレでも自称美形がいるぐらいだし」
「本気だったと思うよ。トイレで鏡見てうっとりしてるぐらいだったし」
「この顔でナルシストキャラか…… キツいなぁ」
「成績は一応学年で10指には入るぐらいだった」
「頭はいいのか」
「オール2とかで入れるぐらいの高校の10指って大したこと無いよ。他の高校だったら下位ぐらいなんじゃないの?」
「そう言えば猛山くんも同じこと言ってたな」
それを聞いて参道求の表情が一変した。
「さっきも猛山洋児って言ってたけど、どうやって知り合った?」
「ああ、俺がいる警察署で刑事やってるよ」
「そっかぁ…… 猛ちゃん刑事になったのか」
「猛山洋児と知り合いなのか?」
参道求は再びアルバムの写真を指さした。そこには猛山洋児の若い頃の写真があった。
「梅本とも僕とも3年間同じクラスだった」
それを聞いて岡田俊行の中にある疑問点が生まれた。
「あれ? 桃花仁高校で同級生って事は猛山くんと同じよね? 知り合いじゃないの?」
「さ、さぁ…… 別のクラスだったんじゃないですかね? うちクラス結構いっぱいあったんで」
宝美会病院の時のやり取り、明らかに誤魔化し方が変だった。下手したら解剖、いやそれ以前に顔を見た時から知っていた可能性すら浮上していた。それを考えた岡田俊行の意識は上の空になる。
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