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「この大会全国の名だたる工業高校とか出てたんですよね? 普通科の高校に負けたらメンツ丸つぶれじゃないですか」 その時、ノックの音が鳴った。 「どうぞ」 内東滝矢が入室を促す。入ってきたのは三角巾を被った掃除のオバちゃんであった。 「内東先生。ゴミ回収なんですけど」 「オバちゃん。今朝も来たじゃないか」 「紙ゴミとか大丈夫ですか?」 掃除のオバちゃんが内東滝矢の近くにあった業務用シュレッダーをちらりとみる。内東滝矢は車椅子を動かしてシュレッダーの引き出しを開けて裁断された紙ゴミの量をチェックする。紙ゴミはあまり多くはなく引き出しの隅に固まっていた。その紙ゴミの中には粉々に砕けた段ボールが混じっている。近頃のシュレッダーは厚紙すらも砕けるのかと岡田俊行は感動を覚えていた。東京にいた時にホームレスの家の段ボールの処理で苦労していたことが頭に過るのであった。 「今日は今朝と違って増えてないからまた夕方来てよ」 「さいですか。今朝の分は学園祭に使う紙吹雪作るって集めてる子らがいたんで渡しておきましたよ」 「あ、そうだ。シャフトとケーブル捨てといてくれました?」 「大丈夫ですよ。今日は粗大ごみの日でしたので出しておきましたよぉ」 掃除のオバちゃんはロボット部部室を後にした。 「この学校清掃員雇っているんですか?」 岡田俊行が内東滝矢に尋ねた。内東滝矢はすぐに答えた。 「何年か前は忘れましたが…… 掃除面倒くさいって生徒さんから苦情が来ましてね。それで清掃員雇う流れになったそうです。机つって掃除とかここの生徒さんやりませんよ」 「掃除ぐらいすればいいのに、嘆かわしい世の中になりましたね」 「嘆かわしいのはこの学校ですよ」 内東滝矢は吐き捨てるように言った。 「さっきのゴミって?」 「ああ、ロボットの部品だよ。本当は僕がゴミ捨て場まで行きたいけどこの体たらくなもんでね。部員がいない時はゴミ回収のオバちゃん任せさ」 ここまで話したところでチャイムが鳴った。昼前のチャイムである。 「これから緊急の職員会議なんですよ」 「すいません。色々と長話させちゃって」 「いえ、とんでもないです」 そう言って内東滝矢は教室から出た。2人はそれに付いて行く形で教室を出る。 内東滝矢は電動車椅子のレバーを動かして4階最奥のエレベーター前に向かった。 「昔はエレベーターなんて無かったよね」 「うちらが卒業した後に作ったらしいよ、僕はそのおかげで大分助かってるけどね」 3人はエレベーターに乗った。エレベーターはゆっくりと降りる。 「4階ぐらい階段で登ればいいのに…… 近頃の子供は……」 猛山洋児はボソリと呟いた。 「うちらが馬鹿だ馬鹿だと思ってた上級生のお兄さんお姉さんの子供がそんな感じですからね、甘えがあるのでしょう」 「やっぱりうちらと違ってゆとりなんですかね」 「うちらみたいな団塊ジュニア世代から言わせたら色々と甘えてるところありますよね」 そんな話をした後にエレベーターから降り、内東滝矢はそのまま目の前にあった職員室に入っていった。 「うちらも一旦帰るか」 「そうですね、学校内で特に怪しいものもありませんでしたし」
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