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 解剖室に続く廊下には午後の光が差し込んでいた。だが、解剖室と言う部屋の前のせいか暗く淀んだ雰囲気が立ち込める。扉の前では執刀医とその助手が岡田俊行と猛山洋児の2人を待っていた。 「本日は宜しくお願いします」 それに対して2人は黙礼で返した。4人がドアを開けると結構強めの水道の音が聞こえてきた。体を切り開いて流れた血を流すための水の音であった。それと同時にジャラジャラと言った金属と金属がぶつかるような音が部屋に響く、これから体を切り刻む刃物同士がしのぎを削り合っているように聞こえた。  解剖台の上の被害者は全裸であった。執刀医は初めから全裸で来る方は珍しいと思っていた。脱いだのはサンダルのみである。写真係がその姿をあらゆるアングルから撮影していた。先程の金属音の音とは違って今度はフラッシュの音が部屋に響いていた。 「人間、生まれた時は裸ですけど死ぬ時も裸ってどんな気持ちなんでしょうね」 何の気も無しに猛山洋児は岡田俊行に尋ねた。しかし、岡田俊行はそれに答えることは無かった。写真係が足の裏を撮影し始めた。それと同時に岡田俊行も足の裏を注視した。 「どうしました?」 「ちょっと足の裏が気になって」 岡田俊行の足の注視に気がついたのか写真係は足の裏に接写して撮影をした。今はデジタルカメラで撮影をしているせいかすぐに撮った写真を確認出来る。写真係はカメラ背面のディスプレイに接写された被害者の足の裏をこちらに見せてくれた。 「砂利の一粒もついてませんね。サンダル履きっぱだったからでしょうか」 「むしろ水虫の方が酷いですね、所々皮膚が剥がれてる方が気になりますよ」 2人がこう言ったところで写真係は再び撮影に戻った。そして、股間の撮影に入りだした。 「縮こまって完全に被ってますね。縮むと小学生とかそんな大きさにまでなるんですね」 「おい、不謹慎だぞ」 「すいません、気になったもので」 「気にするなよ…… 同じものついてるんだから珍しいもんでもあるまいしか」 「あのジョン・ドゥさん、女性関係には困って無かったっぽいですね」 「どうして分かる?」 「あそこ、黒いじゃないですか」 「だからこういう不謹慎な事言うのは」 執刀医は皮をゆっくりと剥いた。解剖室の僅かな光を反射するぐらいに見事なピンク色の中身であった。 「すいません、さっきの発言撤回します」 「いや、わざわざ撤回する程のもんじゃないだろ」 「一人遊びのやり過ぎで黒く染まったっぽいですね、女性関係で使い込んでいれば中身も刷れて黒ずむんですよ」 岡田俊行は亡くなってまで股間の見聞をされている目の前にいるジョン・ドゥに同情を覚えた。猛山洋児は稲葉白兎より言葉を選ぶいい子とは思っていたがこの股間の見聞で一気に評価は逆転した。こいつ、実はとんでもないやつだ。 「下手したら女性を知らずに死んだかも知れませんね、可哀想なものです」 だから死体蹴りみたいなことはやめてくれよ。岡田俊行は猛山洋児をギロリと睨みつけた。
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