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「知っとるよ、儂が縫った」 驚天動地であった。それを聞いて岡田俊行は宝美会病院院長に詰め寄った。 「本当ですか! 一体どこの人にこの治療を施したのですか!」 「お、落ち受いてくだされ。もう16年ぐらい前の話になるでのう」 そう言って壁の棚にあったカルテを引っ張りだした。 「うちはそう滅多に患者が来ないからひとりひとりはよく覚えとるんじゃ」 「これでよく30年間やっていけてるな…… どうやって経営が成り立っているのだろうか」と、岡田俊行は猛山洋児に院長に聞こえぬよう小声で囁く。猛山洋児は無反応であった。無視と言った方がいいだろう。 「あったあった。梅本尚史(うめもと なおし)18歳、高校生じゃ」 宝美会病院院長はカルテを岡田俊行に渡した。カルテには確かに右脛部裂傷、3針と書かれていた。 「16年前のカルテで18歳って事は…… 今34歳か。俺らとタメか」 隅から隅までカルテを見回す。住所、林河区内でしかもこの近所。一番驚いたのが桃花仁高校在学中と書かれていた。 「あれ? 桃花仁高校で同級生って事は猛山くんと同じよね? 知り合いじゃないの?」 「さ、さぁ…… 別のクラスだったんじゃないですかね? うちクラス結構いっぱいあったんで」 猛山洋児は一度もこちらを見ること無く言った。それに違和感はあったが今はそれを気にしてる余裕は無かった。 「身長、154センチ…… 体重60キロ…… 体重は今と違う事を考えても特徴はあってるな」 とりあえず、繋がった。そう確信を持った岡田俊行はカルテに記載されている梅本尚史の住所に向かう事にした。 「このカルテ、お借りしていいですか? もしくはコピーを」 岡田俊行が尋ねるが院長が首を振る。 「うちはカルテの持ち出しは厳禁です」 宝美会病院院長は警察に協力する気はサラサラ無いのが見て取れた。ちなみに個人情報保護法は警察の捜査に関しては例外対象となっている。30年前のこともあって警察不審を拗らせているのであった。 「捜査に協力するのは市民の……」 岡田俊行の言葉を猛山洋児が遮る。 「住所なら自分がメモっておきますので」  2人はカルテに記載されていた梅本尚史の住所に辿り着いた。だがそこには信じられない光景が広がっていた。確かにそこに家はあった、だがそこにはかなり古ぼけた売約済みの貼り紙があった。 「どういうことだよ…… もぬけの殻じゃねぇか」 猛山洋児はそれから程なく売約済みの張り紙に書いてあった不動産屋に電話をした。電話が終わって戻ってきた猛山洋児は更に信じられない事を言い出した。 「15年前に夜逃げされてそのままだそうです」 「意味が分からねぇ」 岡田俊行は頭を抱え込んだ。折角手がかりを手に入れたと思ったのにそれがスルリと抜けてしまったのだ。その気持ちは計り知れない。 「あ、そうだ。ついでに宇野課長から伝言です」 「何だよ……」 「初日からご苦労様でした。本日はもう直帰でお願いします。だそうです」 いつの間にか時間はもう夕方5時を過ぎていた。
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