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 9月も終わりかけようとしていた秋の始め、刑事、岡田俊行はいつもとは違う道を車で走らせていた。 いつもなら自宅から3回曲がるだけの単純な道で自分の所属する警察署に着くのだが今日ばかりは事情が違っていた。以前に担当していた国会議員が河原の河川敷で燃やされ殺される事件。その事件に関わる警察の実態を知ってしまった故に「飛ばされた」のである。 事件そのものは彼とその捜査協力者である小説家の活躍で解決はしたのだが、そこに関わる警察の捜査ミス、自業自得で燃やされ殺された国会議員の名誉を守らんとする与党の自尊心、その2つの組織の威信を守るために今所属している警察署から「飛ばされた」のだ。  岡田俊行は正義感の強い少年であった。間違ったことがあれば全力で相手に突っかかるぐらいの少年である。傍目から見れば正義感溢れる「良い子」なのだが、突っかかられた方や事なかれ主義で余り人に関わらないようなタイプからすれば鼻につく感じであった。これがトラブルになった回数は数え切れない。 小中高と、この様な正義感の塊であった為、岡田俊行の進路は決まっていた。警察官である。18歳になったその日に交番に願書を貰いに行く程であった。国公立大学や一流私立大学にも生徒を進学させる高校にいて成績はいい方であった為に両親、教師ともに警察官と言う道に進む事を反対した。家も大学に進学させる金が無い訳では無かった、むしろ両親は岡田俊行の上にいた姉と兄を4年制の私立大学に出している。そのぐらいの財力はあった。 両親に関してはすぐに折れた。彼の正義感の強さは別に誰かに譲れられた訳では無い。おそらくは子供の頃にテレビで観ていた「正義のヒーロー」に憧れ、そこから形成されたものである。それを分かっていた両親は警察官になることを息子の意思として尊重する事にした。 最悪にも最後までゴネたのは教師の方であった。自分の学校の進学率の事しか考えない、いや、自分の評価しか考えなかったのだろう。教師としては警察官になられては進学率が下がる。それ故に反対していたのだった。現に岡田俊行が進路希望調査票に「警察官」とだけ書いて提出した時にはそれを岡田俊行の目の前で破り捨てたぐらいであった。 「自分の生徒の進路すら教師が勝手に決めるのか」それは岡田俊行にとっての悪であった。もうこんな人には頼れないと思った岡田俊行はこれから先の全てを教師に頼らずに行くと誓った。その誓いは教師に取って極めて不愉快なものであった。 「このまま警察官を受験すると言うなら卒業資格はやらないぞ」 教師は岡田俊行に大学進学の進路を取らせる為に脅迫まがいの手を取った。こんな事が許されるのだろうか。世間的には許されないだろう、だがこの教師は自分が生徒の生殺与奪を握っていると勘違いしているような人間であった為にそれが通ると思い込んでいた。高校の上層部も所詮は「進学率」が重要と考えているのかその教師の行動を許していた。現にその教師のクラスからは毎年何人もの大学進学者を出していたからである。 岡田俊行はそんな教師の態度に憤慨し、高校を退学しそこから警察官を目指そうと思った。警察官の三類は中卒でも受験資格があると知った上での決意であった。その瞬間に教師は「退学は困る」と喚きだした。自分のクラスから退学者を出すと自分の評価が下がる。それ故に教師は折れたが「お前の警察官受験に関してはうちからはなにもしないからな」とだけ吐き捨てた。それに対して岡田俊行は「卒業さえさせてもらればいいです」と吐き捨てた。
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