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Chapter-12
いつも通り工藤と学校まで登校した麗秀。
二人は下駄箱で別れると、工藤が数人の男子生徒に声をかけられていた。
麗秀は、その様子を少し離れたところから見る。
まるで工藤を囲むような男子生徒を見て、不思議に思う麗秀。
「おっはよー!」
「おはようございます」
麗秀が振り向くと、亜美と杏がいた。
「二人ともおはよう」
麗秀は、いつも通り笑顔で返す。
だが、工藤の様子が気になっているようで、そちらの方をチラチラと見ていた。
それを見た亜美が、薄ら笑いを浮かべて麗秀に近づいて来る。
「さっそくだね」
亜美の言葉の意味がわからない麗秀は、どういう意味かを訊ねた。
「だって麗秀、工藤の告白オッケーしたんだろ。ふたりが一緒にいるのを見た奴がいるって聞いたよ」
そう言われた麗秀は、笑顔のままで内心思う。
……じゃあ、もうみんな知っているってこと?
でも、それと工藤くんがあんな風に詰め寄られるのとは、どういう関係があるんだろう。
「にしても、うちのガッコの男子も情けないよな。麗秀を取られたからって、大人数で囲むなんてよ。マジでダサすぎぃ」
亜美がそう言うと、杏がその横で悲しそうな顔をしていた。
杏がポツリと呟く。
「工藤くん……かわいそう」
麗秀は理解した。
工藤は、麗秀と付き合うことになって、男子生徒たちに何か言われているのだと――。
……私のせい……なの……?
こんなの嫌だよぉ……。
みんなが私と工藤くんが付き合っている話を、ああでもないこうでもないってするなんて……。
麗秀がそう思っていると、工藤は男子生徒たちの間を無理矢理抜けていっていき、その場では何も起きなかった。
だがその後も、男性生徒たちの嫌がらせは続く。
直接何かするわけではなかったが、誰もが工藤を無視し、自分たちのグループに入れなかった。
授業での班決め、体育でのペア、昼休みの食事――。
工藤はこの日を境に、完全に学校内で孤立した。
「ったく、陰険な連中だな」
亜美が怪訝な顔をして言った。
「うん、ひどいよね。ただ好きな人と付き合ったってだけなのに」
杏もそれに同意する。
「腕力じゃ工藤に勝てねぇと思っているからって、まるで女のイジメだな。みみっちいったらありゃしない」
「うちのクラスって、そういうこと起きると思わなかったのに……。なんかギスギスしちゃってヤダね」
亜美と杏が話す通り、工藤への嫌がらせが始まってからクラス内の空気は悪くなっていた。
……どうしてこうなるの。
だから恋愛なんて嫌なんだよぉ。
誰かと誰かが付き合うなんてどうでもいいいことなのに、みんな過剰に反応して、騒ぎ立てる。
くだらない、実にくだらない。
だから私は避けてきたのに……。
麗秀は、二人の話を聞きながら、乾いた笑みを浮かべてそう思った。
放課後――。
麗秀と亜美と杏三人が固まっている席に、工藤がやって来る。
工藤の様子は、クラス中の男子からぞんざいな扱いを受けているというのに、いつも通りだった。
「工藤……あんたタフだねぇ」
その様子を見て、少し呆れている亜美。
心配していたわりには他人事のように言った。
「別に、フツウだよ。なあ、この後に三人でどっか行くのか?」
亜美は「行かないよ」と返事をして、杏に声をかけて、席から立ち上がる。
「じゃあな麗秀。また明日」
「麗秀ちゃんさよなら。工藤くんもね」
亜美と杏は、そう言うと教室を出て行った。
その後、麗秀と工藤も下校する。
工藤が前を歩き、麗秀はその背中を追う。
――前と同じ。
夕暮れの中を二人は何も話さず、ただ黙って歩く。
「工藤くん……」
沈黙に耐えかねた麗秀が、声をかけた。
「工藤くんは大丈夫なの……?」
「大丈夫ってなにが?」
「い、いや、あ、あの……クラスの男子たちにされていること……」
俯いて、言いづらそうに訊く麗秀。
だが工藤は、笑みを浮かべていた。
「あんなのどうでもいいよ。学校なんて一生いるとこじゃないし。それより俺は、九能とこうやって話せているのが嬉しい」
「えっ?」
麗秀は、工藤の言葉と表情に気持ちが激しく揺さぶられる。
それは普段、学校では見せない笑顔だった。
夕焼けの色と重なったせいか、工藤の顔は暖かさを感じさせた。
クラス中の男子から目の敵にされても気にしないという彼に、麗秀はなんて返事をすればいいかわからなかった。
それは、その原因が自分にもあったからでもある。
だがそれ以上に、他人からここまで好意を伝えてもらったことがなかったからだった。
戸惑いながら歩いていると、麗秀の住むマンションが見えて来た。
「あのさ」
「は、はいっ!?」
急に声をかけられ、いつものように笑顔が作れない麗秀。
工藤は、気にせずに話を続ける。
「九能って土曜とか空いてる? もし時間があるなら映画でもいこうかなって」
「えっ!? う、うん大丈夫だけど」
「そっか、よかった。詳しいことは今度話すよ」
すると、麗秀は俯き、困った顔をして黙ってしまった。
「もしかしてあまり乗り気じゃない? 映画好きじゃなかった?」
「そ、そういうわけじゃないよ……」
「そっか。なにか観たいのあったら言ってくれよ。それじゃまた明日な」
工藤は、そう言うと行ってしまった。
……どうしよう。
デートだ、デートの誘いだ。
いや、それよりも工藤くん、あんな目にあっても気にしないなんて……。
麗秀はその後、フラフラとマンションに戻って、とりあえずシャワーを浴びた。
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