40人が本棚に入れています
本棚に追加
Chapter-17
それから麗秀は、父親の九能に連絡した。
雨の中、スマートフォンを耳に当て走りながら待つ。
だが、いくら待っても空しく電子音が流れるだけだった。
諦めた麗秀は、次に沁慰に電話をする。
「は~い、どうしたの麗秀?」
沁慰は、麗秀を待たすことなく出た。
「お、叔母さん……」
弱々しく、今にも消えそうに返事をする麗秀。
声を聞いただけで、泣いているのがわかる。
沁慰は何も聞かずに、すぐに迎えに行くから自宅のマンションか、居るところがわかる場所にいるように伝えた。
その言い方はとても優しく、まるで聖母のようだった。
麗秀は、自宅で待っていることを伝えると電話を切った。
電話を受け取った沁慰は、池袋の事務所にいた。
すぐに出発しようとすると、周りにいた中国人たちが慌てて止めて来る。
中国人たちの様子を見るに、どうもこれから大事な会議があるようだった。
「どきなさい。姪が泣いてるの」
沁慰がそう言うと、傍にいた髪の長い中性的な風貌した二人の男が前に出る。
二人が中国人たちの前に出ると、沁慰はその間に事務所を出て、愛車であるオールテレンブルーのハマーH2に乗り込んだ。
……麗秀。
あの子があんなになって電話してくるなんて……。
何があったの……。
マンションに着いた沁慰は、スマートフォンで連絡を入れて麗秀の家に入る。
扉を開けると、玄関の目の前で壁に寄りかかり、体育座りをしたずぶ濡れの麗秀の姿があった。
「お、叔母さん……」
顔を上げて、また涙を流す麗秀。
沁慰は、そのままでは風邪をひいてしまうと言い、浴室に麗秀を連れて行った。
「まずはシャワー浴びなさい。それで少しは落ち着けるでしょ」
「で、でも叔母さん……」
「話はそれから!」
沁慰は、両手を組んで力強く言うと、麗秀の着ている制服を脱がして浴室の扉を閉めた。
それからベランダへ行って、ジャケットのポケットからとアークロイヤルのバニラフレーバーを取り出し、火をつけて紫煙を吐き出す。
……あの子。
相当、参っちゃってるわね。
沁慰がそう思っていると、いつの間にか麗秀が後ろにいた。
その姿は、髪も濡れたままで、何も身に着けていない裸のままだった。
「もっとゆっくり浴びなさい。それにどうしてなにも着てないのよ」
呆れている沁慰の口から、ため息と煙が一緒に吐き出される。
タバコを消し、それを携帯灰皿に入れ、また麗秀を連れて浴室に戻っていった。
まずバスタオルで体を拭き、適当にそこらにあった服を着せる。
それからドライヤーで髪を乾かす。
麗秀は、まるで人形のようにされるがままだ。
「ごめんね……」
「何がよ」
「急に呼んじゃって……」
沁慰は、乾いた髪を櫛で梳かしながら、ため息をついて言う。
「ホントよ、もう。でも……麗秀が私をこんなふうに頼ってくれたのって初めてじゃない? だからちょっと嬉しいかな~」
楽し気にいう沁慰の声を聞いて、麗秀はようやく安堵の表情を見せる。
そして、いつの間にかもう涙も止まっていた。
「それでね、叔母さん……」
落ち着いた麗秀は、静かに話を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!